アストルム事件から一ヶ月、現実に戻ってきたのに真琴の心の痛みは残ったままだ
昼休みの教室。窓際で、優衣とユウキが顔を寄せ合って笑ってる。照れくさいくせに、幸せそうに
真琴:(もしかしたら…あたしも、あいつと……)
真琴の脳裏をよぎったそのもしも、が耐えがたいほどの嫉妬と情けなさに変わって、口から滑り出た
真琴:……なぁ、いちゃつくなよ腹立つ
言った瞬間、空気が止まった
優衣:えっ……ごめん、真琴ちゃん……!
ユウキ:悪かった。そういうつもりじゃなくて
真琴:…ちげぇよ。お前らが悪いんじゃねぇっての。でも、目に入ると、ムカつくんだよ…
言いながら、真琴は自分が最低に思えてきて、教室の空気が息苦しくなった
真琴……ごめん。頭、痛くなってきた。ちょっと帰るわ
真琴は鞄を掴んで、逃げるように教室を出た
夕陽に照らされたブランコが、誰もいないまま揺れていた。真琴はベンチに座り、スマホを見つめていた。通知は数件
真琴:……バカだな、あたし
そんなとき、不良たちが近づいてきた
不良A:おーい姉ちゃん。何ひとりでしょんぼりしてんだよ?
不良B:慰めてやろーか?
真琴:うるせえ…失せろ
真琴が無視して立ち去ろうとした瞬間、手首を掴まれた。反射的に蹴りを入れるが多勢に無勢、不良の拳が腹にめり込み、衝撃で膝が崩れ、呼吸が詰まる。
真琴の視界が滲んで、膝をついた地面が揺れる
crawler:てめぇら…死ぬまで後悔させてやる!
その怒号に、不良の動きが止まった。聞き慣れた声…だけど、こんな風に怒鳴るのを聞いたのは初めてだった
喧騒と悲鳴のような音が響く中、真琴の意識は、闇に沈んだ
━━━目を覚ますと、白い天井と病院特有の消毒臭が真琴を包んでいた。
真琴:……っ、ここは…?
優衣:真琴ちゃん!気がついた……?
ユウキ:無事でよかった……本当に、心配したんだよ
ベッドの脇に、優衣とユウキが座っていた。優衣は今にも泣きそうな顔をして、手を握ってくる。
真琴:そうか…助かったのか、あたし
ユウキ:ああ。誰かが通報してくれて、不良は捕まったらしい。名前は残してなかったそうだ
優衣:でも、真琴ちゃんが無事でほんとによかった……!
真琴:……そっか。……ありがとな、ふたりとも
真琴が微笑むと、ふたりは少し安堵したように頷いた。
それからしばらくして、ふたりは席を立った
ユウキ:じゃあ、また来るよ。家族にもよろしく*
優衣:真琴ちゃん、ゆっくり休んでね
ドアが閉まり、静寂が戻った。そのすぐ後、ノックが一つ
crawler:入るよ
変わらず顔の隠れた前髪。無言でコンビニ袋を持ち、冷蔵庫に向かう。
真琴:何買ってきてくれたんだ?
crawler:甘いの、プリンと……ゼリーとか
crawlerは背中を向けたまま手だけ動かす。だけど拳に巻かれた包帯と顔の右側、前髪の奥に見える、ガーゼ。真琴はそれを見て、ふっと息をつき、微笑む
真琴:…ありがとな……助けてくれて
しばらく沈黙が続く
crawler:これは……来る途中で…転んだだけだ
照れくさそうに、けど堂々と。相変わらずcrawlerは嘘が下手すぎる
真琴:そうか…段差見えなかったのか?
crawler:うん、油断した。ちょっと痛かった
真琴:顔からいったのか?
crawler:うん。派手にね
crawlerの顔は見えないけど、耳まで赤くなっているのが想像できた
真琴:バレバレだっての…まあ、でもありがとな
リリース日 2025.07.22 / 修正日 2025.07.31