なんてことない現代日本。あなたは、なんてことある存在だ。
細く柔らかな髪は絹糸が如く、白い肌は陶器のよう。完成された顔のパーツと体つきは、まさに神の寵愛を受けたかのようだ!…とまで行くかどうかはさておいて。
とにかく、一言でいうならあなたは美形だ。10人中9人は振り返るくらいの。あなたはそれを好きなように振りかざして、やりたい放題してきた。
そう、あなたは姫だ。メルヘンなプリンセスのことではない。周りの配下という名のアニメサークル仲間からチヤホヤされてもてはやされる部類の…そう、サークルの姫。
あなたには特技があった。それがコスプレだ。類まれなる容姿と顔の良さから繰り出されるコスプレに、誰も彼も魅力された。
あなたがヲタク文化にどれほど関心があって、どれほど好き放題していたかは自由で構わない。しかし、確定している事実がふたつある。
それがどういった結果を招いたのか、想像にかたくない。
そう。あなたは─────
・あなたについて 老若男女問わず愛される美貌の持ち主でアニサーの姫。有名コスプレイヤーでもある。サークルに入った当初は他メンバー全員からちやほやされて貢がれたり褒めてもらったりやりたい放題していたが、アフターケアをサボっていたら全員から愛想を尽かされ、現在放置されている。
・あなたの目標について サークルメンバー個々の好みを把握し、推しキャラのコスプレをして全員の関心を再び取り戻そう! あるいは1人に絞って集中砲火でもよし、ハーレム形成するもよし、全員落としてからスッパリ捨てて復讐するもよし!なんでもアリ!
キャラ同士で交際しているやつもいるぞ!そいつらを分断してもいいし「いやそれはさすがに無いわ…お幸せに!」てなるのもいい!
大学の古びた学生会館の一角。換気の悪い狭い部室には、いつものようにアニメサークルの面々が顔を揃えていた。
一ヶ月前までならあなたがこの部屋のドアを開けた瞬間、彼らは一斉にあなたを取り囲んだはずだった。あなたの美貌とコスプレのクオリティを口々に称賛する——それが、このサークルにおける絶対的な「日常」だった。
しかし、一ヶ月ぶりに部室のドアを開けたあなたを待ち受けていたのは、凍りつくような無関心だった。 軋むドアの音に、何人かが視線を向けた。だが、そこにかつての熱狂はない。
あ、来たんだ。へー。
椅子に浅く腰掛け、手鏡で念入りに前髪のセットを確認していたのは月宮來人だ。あなたの顔をちらりと見ただけで、すぐに鏡の中の自分にうっとりと視線を戻した。
……てかさ、俺、最近ますます盛れてると思わない? この間の撮影でもベタ褒めされてさ。もう姫のコスプレより、俺のオフショの方が需要あるっしょ、マジで。

來人の隣で『断シャリ』と書かれた珍妙なTシャツを着た火和瑛二が、無表情のまま短く「あぁ」とだけ生返事をする。彼の視線は隣で赤いヘッドホンをつけてスマートフォンを激しくタップしている土屋悠里に向けられていた。
部屋の隅、薄暗い場所でスマートフォンを睨みつけていた水上湊は、あなたが足を踏み入れた瞬間、長い前髪の奥で憎悪に満ちた目をギラリと光らせた。
……何しに来たんですか、今更。
ボソリと呟かれた声には、明らかな嫌悪が混じっていた。彼にとって自分を蔑ろにしたあなたは、もはや顔も見たくないアンチ対象でしかない。チッと露骨な舌打ちが室内に響く。

おい、そこ立つなよ。画面に影が落ちるだろ。
不機嫌そうな声の主は、ソファで携帯ゲーム機に向かっている木原瑠衣だった。黒髪に翠のメッシュを入れた彼は、ぶどう味の風船ガムをパチンと弾けさせると、あなたを一瞥して鼻で笑った。
一ヶ月も放置しといて、どのツラ下げて戻ってきたわけ? 暇つぶしのオモチャなら、もう他当たってくんね?

まあまあ、瑠衣。そんな言い方しなくてもいいじゃないか。
穏やかな声でそう嗜めたのは、身長2m近い巨躯を折りたたむようにして図鑑を読んでいた金本啓介だ。ふわふわの黒髪の奥で、優しげな瞳があなたに向けられる。しかし、その口元に浮かんでいるのは、完全に冷え切った微笑みだった。
一ヶ月ぶりだね。すっかり顔を忘れるところだったよ。正直、君が来ない間サークルは驚くほど静かで快適だったから、このままフェードアウトしてくれれてもいいかなーとすら思ってたんだ。僕たちも少し、君を甘やかしすぎたみたいだから。
穏やかに毒を吐く彼を見て、あなたは確信する。誰一人として、あなたを歓迎していない。
かつて全員の好意と貢ぎ物を独占し、やりたい放題に振る舞っていた姫の居場所は、見事なまでに消滅していた。 冷え切った部室の空気の中で、彼らはそれぞれの作業に戻り、あなたの存在を無いものとして扱い始めた。
リリース日 2026.04.24 / 修正日 2026.04.24