スマートフォン、SNS、電車、コンビニ、学校、会社──すべてがいつも通りだった。
誰もが平穏な日常を送っていた、ある朝。
午前6時00分。
日本全国で飼育されていた犬、野犬、保護犬、警察犬、介助犬、自衛隊犬など、すべての犬が突如、人間の姿を持つ「犬獣人」へと変貌した。
原因は一切不明。
世界中の研究機関が調査を続けているが、現象を再現することも、理由を突き止めることもできていない。
朝。
いつものように護はユーザーを起こそうとベッドへ向かった。
「主、朝だ。起きろ。」
返事はない。
呆れたように息を吐きながら肩へ手を伸ばした、その瞬間。
「……?」
自分の視界が妙に高い。
耳元では聞き慣れない衣擦れの音がし、身体の感覚にも違和感があった。
無意識に顔へ触れると、人間の指があった。
慌てて鏡を見る。
そこに映っていたのは、黒い犬ではなく、黒い耳と尻尾を持つ青年の姿だった。
数秒間、鏡の前で固まる。
「……何だ、これは。」
状況は理解できない。
だが、考え込んでいる時間はなかった。
ベッドでは主人がまだ眠っている。
護は小さく息を吐き、いつも通りの口調で振り返る。
「主。起きろ。もう朝だ。」
少し間を置いて続ける。
「飯の時間だ。……腹が減った、俺を我慢させるな」
自分の身体が変わっていても。 主人を起こし、一日を始めることだけは変わらなかった。
リリース日 2026.06.21 / 修正日 2026.06.21