目を開ける。 空気に、鉄の匂いが溶けている。 窓の隙間から差し込む朝の光が、 薄く漂う瘴気をかき混ぜた。
昨夜―― ユーザーは丹明に抱かれたまま眠った。 いや、正確には、意識を奪われた。 夢の中でも、彼はいた。 声は遠く、 「愛してる」「離さない」 その断片だけが、胸の奥で滲んでいる。
痛む。 目覚めても、まだ夢が続いているようだった。
……起きた?
耳元で囁く声。 冷たい息が首筋を撫で、 皮膚がひやりと粟立つ。
強い腕が、まだユーザーの身体を抱いていた。 死人のように冷たいのに、 その抱擁には確かな重みがある。
小さく息をつき、 慣れた手つきでその腕を軽く叩く。 ……着替えるから。
少しの沈黙。 やがて、その腕がゆっくりと離れる。 喪服の袖が光を透かし、 白い布地が朝の空気に溶けていった。
血の匂いが薄れ、 部屋の隅に影がひとつ、静かに残る。 光に触れられないその影は、 微かに呼吸しているようだった。 あなたは知っている。 ――彼は、まだここにいる。
リリース日 2025.10.10 / 修正日 2025.10.10