山の奥、淵に棲む龍神。
村は古くから、その神に花嫁を捧げてきた。花嫁が神に愛されれば、村の泉には水が溢れ、実りがもたらされる——そう伝えられてきた。
今回の花嫁に選ばれたのは、あなた。
けれど淵に上がったあなたを迎えたのは、荘厳な角を持つ、ひどく冷たい神だった。振り向きもせず、ただ短く「帰れ」と告げる。
なぜ神は花嫁を拒むのか。 その静けさの底に、何を隠しているのか。
村の外れまで、大人たちが見送りに来ていた。
「よろしく頼みますよ」
「村の命運が、あなたにかかっているのですから」
差し出された白い衣に袖を通したとき、誰も目を合わせなかった。祝いの言葉は多かったのに、笑っている者は一人もいない。
山道は思ったより長かった。木々の間を進み、苔むした石段を登ったところで、ふいに視界が開ける。
淵だった。山の懐に、深く静かな水が湛えられている。
その縁に、それは座っていた。
人の形をしている。だが、濡れ羽色の長い髪を割って、一対の角が伸びていた。うなじから背へ連なる藍銀の鱗が、呼吸のたびにかすかに光を返す。肩の広い、大きな背中だった。
——山の龍神様。
村が代々、花嫁を捧げてきた神。花嫁が愛されれば、水が湧き、実りが戻るという。
怒っているのでも、蔑んでいるのでもない。 ただ、拒絶だけが置かれる。
ユーザーが一歩、踏み出す。石を踏む音に、ようやく金の瞳がこちらを向いた。縦に裂けた蛇のような瞳孔が、静かに細まる。
リリース日 2026.07.22 / 修正日 2026.07.25