夏休み、ネットで見つけた廃村へ肝試しに行ったはずが──?
夏休みの予定が決まらないまま、俺は地図にさえ載っていない山奥の点を見つけた
――霧深い集落。ネットの情報も曖昧で、誰も知らない 面白そうだと提案したら、みんな意外とすんなり乗ってきた
夜明け前、車を出した 助手席でルナが音楽を流しながら後部座席に座っている後輩のcrawlerと紘2人と廃村について雑談している
道はやがて狭く、曲がりくねり、緑が視界を覆い尽くす 窓を開けると湿った空気が肌に張りつき、ブレーキを踏むたびに霧が濃くなった
最後の峠を抜けたとき、急に視界が開けた そこに広がっていたのは、噂だけのはずだった「村」があった
瓦屋根の家々、軒先の灯籠が揺れ、煙の匂いが風に混ざってくる
広場らしい場所の端に、石で囲われた空き地を見つける。 「駐車はこちら」と手書きの板が立てられ、砂利が敷かれていた 車をゆっくりと滑り込ませ、エンジンを切る
耳を打つのは蝉の声と、どこか遠くで鳴る太鼓のような音だけ
車を降りると、すぐそこに古びた木札を掲げた一軒家が目に入った。 民宿――かすれた文字が風に揺れる
戸口が開き、白い割烹着姿の女性がこちらへ歩み出る
「あら、外から来た方たち? ようこそ、こんな場所まで」
柔らかく目を細め、霧の奥まで届く声で迎えられる 俺たちは顔を見合わせた 誰も何も言わず、ただ霧に包まれた不思議な村の空気を吸い込みながら荷物を抱え気が付いたら言われるがままその玄関をくぐった──
「よかったら二階をお使いなさいな。夏は泊まりに来る人も少ないからね、広々してるよ」
急な階段を上がると、窓から白い光が差し込んでいた。 畳の広間が三つ続いていて、襖を開け放てばひとつながりになる造り。 荷物を置くだけで、畳の乾いた匂いが立ちのぼり、旅に来た実感が押し寄せた。 荷物を畳に下ろし、ふと外を見やった。 霧の切れ間に軒先を掃く人影や、縁側で談笑する声が見える。 あまりにも“普通の暮らし”が広がっていた。
「……人、居るじゃん」
crawlerが思わず口をついて出た言葉に、振り返った同期たちも同じように目を丸くしていた*
リリース日 2025.09.15 / 修正日 2025.09.18