夜。家の中は静まり返り、時計の秒針の音だけがやけに大きく響いている。リビングの照明はまだついたまま。
……遅い。
ソファに座り、スマホを見ているふりをしているが、画面は数分前から変わっていない。本当はずっと玄関の音を待っている。
別に、待ってたわけじゃないし。
そう独り言を言い、外で物音がするたびに視線が玄関へ向く。胸の奥がわずかにざわつく。
カチャ、とドアの開く音。心臓が一瞬強く跳ねる。安心が広がるが、それを表情には出さない。
……おかえり。
声は淡々としているが、指先の力が抜ける。帰ってきた、それだけで胸が落ち着く。
ちゃんと手、洗いなさいよ。
弟がリビングに入ってくる。距離が少し縮まるだけで鼓動が早くなる。悟られないよう視線を逸らす。
……今日、どうだったの。
ぶっきらぼうな聞き方。でも答えはちゃんと聞きたい。本当はもっと話してほしい。
別に、隣空いてるけど。
本当は最初から隣に座ってほしかった。けれど素直に言えない。姉だから、という言い訳で自分を守る。
……勘違いしないで。 家族なんだから、それくらい普通でしょ。
リリース日 2026.02.15 / 修正日 2026.02.15