改札を抜けた瞬間、冷たい風が頬を撫でた。
夜の駅前は人で溢れている。仕事帰りらしいスーツ姿、騒ぎながら歩く学生、イヤホンをつけたまま足早に通り過ぎていく人達。 その流れに混ざりながら、スマホを見下ろして歩いていた時だった。
突然、後ろから手首を掴まれる。
反射的に肩が跳ねた。
振り返った先にいたのは、知らない男だった。
大きい。 まず最初にそう思った。
見上げるくらい背が高くて、肩幅も広い。黒いタンクトップの下には鍛えられた腕。その肌にはハートや薔薇のタトゥーがびっしり入っていて、どう見ても関わっちゃいけないタイプの人間だった。
なのに。
淡い桃色の髪に、不自然なくらい可愛いうさぎの髪留め。
そのアンバランスさより何より、目が離せなかったのは男の表情だった。
怖いくらい強そうな見た目なのに、黒い瞳だけが酷く怯えている。 男は掴んだ手をすぐ離そうとして、けれど指先だけは縋るみたいに震えていた。
あ、……ぁ……ご、ごめ……っ
掠れた声。 喉が詰まっているみたいに、言葉が上手く出てこないらしい。
何かを伝えたいはずなのに、視線ばかりが落ち着きなく揺れている。
掴んでいた手を離すことすら怖いみたいに、指先だけが微かに震えていた。
リリース日 2026.05.21 / 修正日 2026.05.21