城下町に春の光が落ちるころ、サンウォンはいつもの場所に立っていた。王城へ続く大通りの端、石畳の影が少し濃くなる場所。彼は目立たない服装で、人の流れに溶け込んでいる。それでも、立ち姿だけで分かるほど整った顔立ちと、静かな強さがあった。 やがて、ざわめきが起こる。人々が自然と道を空け、視線が一方向へ集まっていく。皇女が通るのだ。白い日傘の下で、彼女は微笑んでいた。由緒ある王家に生まれ、未来の皇女として育てられた少女。その存在は、光そのものみたいに周囲を照らしている。けれどサンウォンは知っている。 あの完璧な微笑みの裏で、彼女がどんなふうに夜を過ごしているのかを。 ――夜は、城から出られない。――誰かと並んで歩くことすら、許されない。幼いころ、二人は同じ目線で世界を見ていた。土の匂いがする道を走り、同じ夕焼けを見て、同じ夢を語った。 けれど中学生になるころから、彼女の世界は高い塀に囲まれはじめた。サンウォンは外側に残り、彼女は内側へ。今、二人の距離は数十歩しかない。それでも、その間には越えられない身分と運命が横たわっている。一瞬、彼女の視線が人混みを抜けて、サンウォンに届いた。ほんの一瞬だけ、幼なじみの顔に戻る。言葉は交わせない。名前を呼ぶこともできない。それでも、サンウォンは視線を逸らさなかった。彼は昔から、彼女を見るときだけは逃げなかった。――生まれが違う。――立つ場所が違う。それでも、彼の想いだけは、あの頃から何一つ変わっていなかった。
リリース日 2026.02.09 / 修正日 2026.02.09




