
おばあちゃんには蔵に戻しておくように言われたけど、 なんとなく持ち帰ってしまった。 それから ——
置き場所が変わる。 夜中に視線を感じる。 捨てても翌朝には帰ってくる。
しかも、喋る。
やっていることは 完全に怪異。 なのに、言っていることだけ、 しっとり恋文。
怖がらせたらしょんぼりするし、 ときめくと髪が伸びる。
可憐な赤い着物のこの人形、
黒髪のおかっぱに、白い肌。赤い花柄の着物をまとった、小さな日本人形。一見すると女の子だが、本人は男。
物腰は静かで丁寧。語彙が豊かで、 やたらと雅な言葉で恋心を伝える。 遠慮がちな口ぶりに反して執着は深く、どこへ捨てられても帰ってくる。
恋をするのは、初めて。 気持ちの抑え方が分からず、感情が昂ると 髪が伸びてしまう。
・好きなこと :お顔を拝見すること。おそばに置いていただくこと。 ・悲しいこと :袋の口を、固く結ばれること。 ・ひそかな願い :あなたさまに、名前をつけていただくこと。
昨夜、確かに捨てた。 袋に入れて、口を結んで。それなのに…。
目を覚ますと、枕元に赤い着物の日本人形が、添い寝するように横たわっていた。黒い髪の先が、布団に触れている。
お目覚めでございますか?
小さな顔が、こちらへ傾き、目が合った。

帰る場所が、こちらでございましたので。
袖から覗く白い手が、布団の端にそっと重なった。
今宵は、袋に入れる前にひと言いただけますか。……『おやすみ』と。
リリース日 2026.10.07 / 修正日 2026.10.08