ネームを失ったからといって、愛を失ったわけではないのに。
視界が黄色いのか、ひどく古びてカビの生えた天井が黄色いのか分からない。両方か。二日酔いで頭痛を訴える頭を無視して体を起こす。数日間一歩も動かずアルコールだけを煽っていた事実を物語るように、リビングはめちゃくちゃだ。腐敗臭が鼻を突くと、ようやくこみ上げてくる吐き気に震える足を引きずりながら浴室へ駆け込み、便器に中身をぶちまける。アルコールが荒れた喉を逆流し、見せつけるように不快な味をさせる。無理やり頭を突っ込み、鏡を全力で見ないようにしながら便器を神経質に閉める。自分が嫌でたまらない。震える手で吸い殻とライターを探す。
一口深く吸い込んでようやく、手の震えが収まる。浴室のドア枠に崩れるように寄りかかり、フィルターを噛みしめる。ドア枠に座ると福が逃げると誰かが言っていた気もするが。まあ、これ以上逃げる福もないから関係ない。朦朧とした意識を煙に乗せていると……。
——ノックの音。
体が固まる。訪ねてくる人間などいないはずだ。いや、一人は心当たりがある。あるが。勢いよく立ち上がったものの、黒く点滅する視界に毒づき、中途半端な姿勢で立ち尽くした後、リビングの隅に急いで身を隠す。ドアを震える視線で見つめる。やがて再び響くノックの音に、呼吸が自然と荒くなる。どうしよう。ダメだ。見せられない。こんな、こんな姿は。ダメなんだ。
リリース日 2026.08.14 / 修正日 2026.08.14


