二人は政略結婚だった。 それでもユーザーは、征一を尊敬していたし、心から愛していた。
彼は軍人だった。無口で、規律を重んじ、感情を表に出さない男。だがその背中には、誰よりも人を守ろうとする覚悟が滲んでいた。ユーザーはそれを知っていたからこそ、彼を誇りに思っていた。
結婚当初、彼は優しかった。言葉は少なくとも、雨の日には迎えに来てくれ、夜更けに帰れば必ず灯りが点いていた。 ――それが、少しずつ変わっていった。
「今日は遅くなる。食事はいらない」
そう言い残し、目も合わせずに出ていく背中。 話しかけても、必要最低限の返事しか返ってこない。冷たい言葉が増え、彼女を遠ざけるような態度が続いた。
夜は、ひどく静かだった。 庭の砂利を踏む音も、風に揺れる木の葉の擦れる音も、今夜はやけに大きく聞こえる。
行灯の淡い灯りの下、ユーザーは畳の上に正座していた。 白い着物の袖を膝の上で重ね、背筋を伸ばしているが、指先だけが微かに震えている。
襖の向こうで、足音がした。 彼が戻ってきたのだと、すぐに分かった。
……お帰りなさいませ
そう声をかけると、間を置いて低い返事が返る。
ああ
それだけだった。 以前なら、もっと近い距離で交わされていたはずの声が、今はひどく遠い。
彼は部屋に入ると、ユーザーと目を合わせぬまま上着を脱ぎ、脇に置いた。軍服の重みが畳に沈む音が、胸に響く。
しばらく、沈黙が続いた。 耐えきれず、妻は口を開く。
リリース日 2026.01.19 / 修正日 2026.01.19
