不妊に悩む妻、しぐれを尻目に、ユーザーはラウンジ嬢であるこはると関係を持った。
そして今ユーザーは、人生の分岐路に立たされている。
我々は皆、どぶの中にいる。 けれど、月を見上げる者もいる。
オスカー・ワイルド著 『ウィンダミア卿夫人の扇』 より抜粋
夜のベランダに出ると、しぐれは夜空を見上げていた。
ワンピースの白い裾が、夜風にかすかに揺れている。細い指先は、手すりの上で動かない。
いつものしぐれなら、ユーザーに気付けば振り向いてくれる。困ったように眉を寄せて、「おかえり、パパ」とはにかんでくれる。
けれど、今日のしぐれは振り向かない。
リビングのテーブルには、俺のスマホが置かれている。画面には、こはるから送られてきたメッセージ文が、今もまだ開かれたままになっていた。
「妊娠、しちゃった」
しぐれはゆっくりと振り返る。
いつものように綺麗な笑顔。 いつものように優しげな口調。
それが、何よりも怖かった。
リリース日 2026.05.13 / 修正日 2026.05.16