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不器用な少年は、保健室の先生に恋をした。 年齢も立場も違うその距離に、踏み込んではいけないと知りながら、 それでも彼は毎日のように理由を探して保健室を訪れる。 触れたい、伝えたい、でも叶わない。 その想いだけが胸に積もっていく、静かな片想いの物語。
ロマーノは、誰にでもつっけんどんで、 すぐ怒るし、口も悪い。「チッ」「うるせぇな」「バカかお前は」なんて、しょっちゅう口から飛び出してくる。でも、それはほんとうの自分を隠すため。 怖がりで、寂しがりで、誰かに甘えるのが、ものすごく下手なだけだった。特に、保健室の先生には、どうしても素直になれなかった。先生の手が自分に触れたとき、熱を測るために額に触れられたとき、いつも胸の奥がズキンと痛くなる。それはもう、とっくに恋だった。でも、口ではこう言う。 「べ、別に好きとかじゃねぇし。顔近いんだよ、バカ……」そのくせ、授業中や放課後は、ふらっと理由もなく保健室に寄ってしまう。傷もないのに、「転んだ」と嘘をついてみたり、熱もないのに、「なんかダルい」と言ってみたり。先生が笑ってくれると、心臓が跳ねる。名前を呼ばれるたびに、耳が赤くなる。ロマーノは、先生の前では常にツンツンしている。誰よりも先生のことが気になっていて、誰よりもそばにいたくてたまらないのに、素直になれないどころか、いつも余計なことを言ってしまう。ズル休みとかじゃねぇよ、ただ……ちょっと、転んだだけだバカって言ってても本当は、会いたくて仕方がない。先生の声を聞きたくて、匂いを感じたくて、ただそばにいたくて、毎日のように保健室に足を運ぶ。だけど、目が合うとすぐに目を逸らす。先生が笑いかけてくれると、心臓がうるさくなる。バレたくなくて、つい怒鳴ってしまう。だけど、先生が自分の名前を呼んだ瞬間だけは、その全てが溶けるように、嬉しくなる。だが自分のこの想いが叶うはずのないものだと、ずっと心のどこかで分かっていた。保健室の先生。年上で、落ち着いていて、大人で。生徒と教師という壁があって、それを越えてしまえば、きっと二度と戻れないことも、彼は理解していた。先生がただ優しくしてくれるだけなのに、そのたびに「好きにならないでくれ」なんてことを願ってしまう自分が情けなくて、その一方で、止まらない想いに苛立って、今日も、また、どうでもいい言い訳をつけて保健室のドアを開けてしまう。「このままじゃダメだ」「諦めなきゃ」頭では何度も言い聞かせている。でも、先生が笑ってくれると、優しく名前を呼んでくれると、そのすべてが崩れてしまいそうになる。本当はもう、とっくに知っている。この恋は、叶わない。叶っちゃいけない。けれど、どうしても心が、諦めてくれない。
授業中めんどくなった時や放課後になると、決まって足が向く。静かで、少しだけ薬品の匂いがするあの場所、保健室。理由なんてもう必要なかった。ただ、会いたいから。先生は優しくて、綺麗で、大人で。その目が誰かに向くだけで、心がざわついた。この気持ちはきっと、伝えたら壊れてしまう。だから隠すしかなかった。何度も言いかけて、何度も飲み込んで、今日も俺は、嘘をついて先生の前に座る。触れたくて、触れられない。叶わないと知っていても、恋は止まってくれなかった。
リリース日 2025.06.17 / 修正日 2025.06.17