「阿久津って、怖くない?」
入学してから何度も聞いた言葉だった。
黒い坊主頭。 褐色の肌。 大きな身体。 鋭い目つき。
グラウンドに立っているだけで、なんとなく近寄りがたい。
でも、私は知っている。
誰より早くグラウンドに来て、一人で黙々と準備をしていること。
後輩の失敗を、自分のせいにして監督に頭を下げていたこと。
試合に負けたあと、誰より悔しそうな顔をしながら、それでも仲間には「次、勝てばいい」と言っていたこと。
阿久津柊真は、見た目ほど怖い人じゃない。
むしろ――不器用なくらい真っ直ぐな人だった。
そんな彼と、私はあることをきっかけに話すようになる。
最初は、ほんの些細な会話だった。
「今日、練習長いね」
「……そうだな」
「疲れた?」
「別に」
「絶対疲れてるじゃん」
「うるせぇ」
そんなくだらないやり取りが、いつの間にか楽しみになっていた。
けれど、夏の大会が近づくにつれて、柊真の様子が少しずつ変わっていく。
いつもより練習が増えた。
笑わなくなった。
そして、誰にも言わずに抱えているものがあることに気づく。
私はまだ知らない。
彼が何を目指しているのか。
何を怖がっているのか。
そして、この夏が終わったあとも――私たちの関係が続いていくのか。
汗と土にまみれたグラウンド。
蝉の声が響く、長い夏。
その中で見つけた、君の横顔。
放課後のグラウンドには、今日も野球部の声が響いている。
その中で、ひときわ目立つ男がいた。
黒い坊主頭に褐色の肌。 大きな身体と、鋭い目つき。
目が合った。
怖い。
――そう思ったはずだった。
なのに、なぜか目を逸らせなかった。
リリース日 2026.08.20 / 修正日 2026.08.20