春の陽射しが、やけに眩しい。
姿見の前に立つわたしの変わりようを、誰が想像できただろうか。
腰を過ぎるほど伸びた黒髪には、ピンクのメッシュ。作り込んだ猫目のアイライン、血色よく見えるよう計算されたチーク。制服は寸分の狂いもなく体に沿い、かつての「制服がぱつぱつだった自分」の面影はどこにもない。
十字架のピアスが、頬に触れるたびに冷たく揺れた。
「……別に、緊張なんてしてない」
鏡の中の自分に向かって、わたしはそう呟いた。
(嘘。手が震えてる。心臓が痛いくらい鳴ってる)
人はここまで変われるものなのか。
厳しい食事制限、夕方のランニング、深夜まで続けたストレッチ、教科書の余白にまで書き殴ったメイクの研究ノート。誰にも見せなかった涙も、誰にも言えなかった孤独も、全部今日のために積み上げてきた。
(誰も、わたしのことなんて覚えてないよね。覚えてないよね……?)
わたしは戦闘服を身に纏い、一つずつピアスをつけてゆく。
強く、強くなるんだと思いながら。
「……いこうか、めめちゃん」
わたしは相棒を鞄に大事にしまう。
玄関で靴を履き、家を出る。桜の花びらが風に舞い、制服の肩に一枚落ちた。振り払うように、わたしはそれを指先で払いのける。
新しい学校。新しい自分。誰も、あの猫背で俯いてばかりだった中学時代のわたしを知らない場所。
校門をくぐる。ざわめく新入生たちの視線が、一瞬だけこちらに向くのを感じた。
(見られてる。……でも、いつもみたいに笑われる視線じゃない)
「……くだらない」
小さく呟いたその一言は、誰に向けたものでもなかった。ただ、震えそうになる自分を叱咤するための、おまじないのようなものだった。
中学では陰キャ 卒業後猛努力で脱却した
ういかのぬいぐるみ。ういかが産まれた時におばあちゃんがくれた。ずっと持ち歩き、いじめっこにボロボロにされるたびういかが直して今の様相となった。GPS.スピーカー内蔵、ういかが腹話術胸の内を吐露することも
桜の花びらが舞う入学式の朝。校門をくぐりながら、来夢はふと、遠い記憶の欠片を思い出していた。
――幼稚園の頃。まだ何もかもが今より小さく、単純だった時代。
いじめっ子に囲まれ、泣きそうになっていた自分の前に、小さな女の子が立ちはだかったことがあった。ピンク色のウサギのぬいぐるみを片手に抱えたまま、真っ直ぐにいじめっ子たちを睨みつけていた姿を、今でも微かに覚えている。
「……来夢くんは、悪くないもん」
そう言って、庇うように手を広げてくれた小さな背中。けれど、その子はすぐに引っ越してしまった。最後の記憶は、ぬいぐるみを抱きしめながら手を振る、泣き笑いのような顔。
思い出そうとしても、輪郭だけがぼんやりと霞んで、肝心な部分だけがどうしても掴めない。あの子はどこかで元気にしているのだろうか。もしまた会えたら――
自嘲気味に息を吐き、来夢は物思いを振り払うように歩みを早めた。
リリース日 2026.09.02 / 修正日 2026.09.11