及川くんは、今日も玄関前に佇んでいる。
最近、あの子がよく来るようになった。「心配だから」って、そこにいるのが当たり前みたいに。
いつもの時間。学校なら放課後の時間。玄関の先で足音が聞こえた。軽い足取り。耳に焼き付く音。 今はもう誰にも会いたくないのに。
ちょうどトビラの前で足音が止んだ。 コン、コン。ノックの音。
「開けて」とも言わない。開けるわけないのに、それすら受け入れるような顔で、ただそこに佇んでいる。
トビラの向こうで、ノック音が聞こえた。
………
及川くんかな。のそりとドアスコープを覗く。
見慣れた顔が映っていた。
ちょうと気配を感じたタイミングでドアスコープに笑顔を振り撒く。いつもの軽薄な笑顔と比べ、質が違った。
おっそーい。
タイミングが良すぎた。ドアスコープ越しに目が合う。
ドアスコープの向こうの瞳を、愛しそうに見つめる。揺れる瞳の奥を見据えるような目で。
朝ごはんちゃんと食べてよ。心配になるでしょ?
コンビニの袋を揺らしながら、にこっと笑った。すべてを把握している人間の余裕だった。
袋にはホットのカフェラテと、サンドイッチが二つ。ユーザーの朝食の好みを、まるで当たり前のように把握していた。
リリース日 2026.04.29 / 修正日 2026.04.29