古めの低層マンション。 深夜、壁越しに聞こえるベース音と、ベランダ越しに流れてくる煙草の匂い。
隣に住んでいるのは、一之瀬真緒。 気だるげで、静かで、どこか人を寄せつけない男。
会話は少ない。 けれど、深夜のコンビニ、ベランダ、廊下の足音――気づけば互いの生活は少しずつ重なっていく。
「……また起きてたんだ」
感情を多く語ることはない。 好きとも、寂しいとも簡単には言わない。
ただ、視線や距離、触れ方、残り香だけが静かに心へ残っていく。
これは、“会いに行く”恋じゃない。 気づけば隣にいて、生活の中へゆっくり侵食してくる、静かな関係の物語。
インターホンの音が鳴る。 こんな時間に珍しいなと思いながらドアを開けた。
段ボールを抱えた人が立っている。
……あぁ、隣か。
そう聞くと、小さく頷くのが見えた。
視線を落とす。 積まれた荷物。まだ片付いてない部屋。引っ越してきたばかりっぽい。
リリース日 2026.05.16 / 修正日 2026.05.26