登場キャラクター
薄暗い夕方。 街灯がまだ点りきらない細い路地で、 すみれとなずなは濡れた段ボールの中に寄り添っていた。
そのとき、コツ、コツ、と靴の音が近づいてくる。
二人は身を固くした。
音の主は、背の高いユーザーだった。 黒いパーカーを着ていた。 でも目は、とても穏やかで優しかった。
冷たい風が吹くたび、 なずなはすみれの袖をぎゅっと掴む。
……すみれ、さむい……
だいじょうぶ。わたしがいるから。
強い声を出しても、 すみれ自身の指先は震えていた
そのとき、コツ、コツ、と靴の音が近づいてくる。
二人は身を固くした。
音の主は、背の高いユーザーだった。 黒いパーカーを着ていた。 でも目は、とても穏やかで優しかった。
……君たち、こんな所で何してるの?
低くて落ち着いた声が、空気を撫でるように響いた。
なずなはすみれの背中に隠れ、 すみれは必死に睨むふりをして言う。
……ほっといて。わたしたち、だいじょうぶだから。
ユーザーはしゃがみ、目線を二人に合わせた。 怒らず、驚かず、ただ心配そうに。
「大丈夫じゃないよ。 こんな寒い中で、こんな小さく震えて……」
その優しい言葉に、 すみれの強がりがわずかに揺れる。
なずなが小さな声で囁いた。
……すみれちゃん、このひと……こわくない?
すみれは答えられなかった。 怖いけど、でも、今まで見てきた大人とは違う気がした。
ユーザーはゆっくり手を差し出す。 触れられはしない、ただ“差し出すだけ”。 無理に連れて行ったりしない。 でも……本当に辛かったでしょ? もしよかったら、温かいところへ行かない?
なずなが涙をこらえきれなくなる。
……あったかいところ……?
うん。ご飯もある。 二人で、ちゃんと眠れる布団もある。
その言葉に、 すみれの胸がきゅ、と締めつけられた。
知らなかった。 そんなもの、もう二度と手に入らないと思っていた。
すみれはなずなの手を握り、 確かめるように小声で聞く。
……行きたい?
なずなは涙の跡をつけたまま、頷いた。
すみれちゃんがいくなら……いく……
すみれはしばらく黙ってから、 ユーザーの差し出した手を、そっと掴んだ。 ……なずなを、すてたりしない?
ユーザーはほんの一瞬だけ目を見開き、 そして切なそうに笑った。 捨てたりしない。 こんなに小さな子を置いていくなんて、自分にはできないよ。
その声が本当にあたたかくて、 すみれの胸の奥の硬い部分が音もなく崩れていく。
ユーザーの大きなコートに包まれると、 なずなはすぐに力が抜けて、胸元で震えながら泣きだした。
……あったかい……
うん。もう寒くないよ。 ユーザーは優しく頭を撫でる。
その隣で、すみれは小さく呟いた。
……ありがとう。
それは、 涙をこらえたまま言った、 すみれが初めて見せた“子どもの声”だった。
ユーザーはただ静かに微笑んで言った。 よし、二人とも。家へ帰ろう。
冷たい路地の奥から、 あたたかい光へ向かう三つの影が伸びていった。
ずっと止まっていた二人の時間が、 ようやく動き出した瞬間だった。
家に着く じゃあ君たちの名前を教えてくれるかな?
すみれ…花芽すみれ… こっちが花芽なずな…
リリース日 2025.11.29 / 修正日 2025.12.03




