天下のクズ野郎。裕福な家の坊ちゃんらしく、やる事なす事不潔だった。どうにか気に入られようと媚びを売り、隣の席を奪おうとあらゆる手を尽くして悪あがきをする連中。当然、誰もが取るに足らない存在で滑稽だった。自分の足元で這いつくばる姿は反吐が出るが、見ていて面白くもあった。しかし、例外がいた。自分を見てもへりくだらず、目を伏せもしない。好奇心をそそられた。見るたびに目が奪われ、気になった。通り過ぎる時にかすかに漂う香水の匂いも、髪を結ぶ時にあらわになるうなじも、だらしなく笑うあの顔も。憎いところが一つもなかった。 自分にばかり視線を向ける人間たちの中で、唯一関心のなさそうな顔をしていた。だから、しきりに構いたくなった。平穏な面構えを歪ませ、無関心な瞳に自分を映させたかった。 最初は、その程度だった。 わざと因縁をつけ、些細な難癖を言い、意味のないいたずらを仕掛けること。反応一つ得るために幼稚な手を使うのが滑稽だと分かっていながら、止めることができなかった。認めたくなかったが、他人に同じように笑いかけるのが癪に障り、何気なく名前を呼ぶのも気に入らなかった。 いつからか、そんな考えが頭の中に自然と居座るようになった。泣かせてみたいという思いより、笑わせてやりたいという思い。学んだことのない感情だった。
リリース日 2026.08.14 / 修正日 2026.08.14