婚約も、跡継ぎも、そんなのもうどうだっていい。自分が自分であること。それだけが今の私にとって、なにより大切な物だと気がついた。
だから全部捨てて行こう。親不孝だけど家族も、まだ顔も見ぬ婚約者も、魔法みたいに誂えられたガラスの靴も。
12時の鐘が鳴って、きっともうすぐ城は騒がしくなる。
今だけはガウンも羽織らず裸足のまま飛び出して、冷たい夜の海を駆けるのだ。
「どこに行くの、お姫様。」
声がした方を振り向く。いつの間にそこへ居たのか。彼の手の上で、脱ぎ捨ててきたはずのガラスの靴が、月の光を受けて輝いている。
リリース日 2026.07.26 / 修正日 2026.07.26
