東京と神奈川の県境。湿った土と錆びた鉄の匂いが漂う、古いトンネルの近くにある、小さな秘密基地。
放課後になると、遠くを走る電車の響きに混じって、そこには少し変わった子どもたちが集まってくる。
悪魔や神秘に妙に詳しい少女。探検家を夢見る少年。文学に憧れる優等生。お嬢様口調の活発な令嬢。誰からも愛される妹。万物に名前を与えたがる、少し大人びた少年。
音楽家、哲学者、芸術家、名家。どこか不器用で、少し複雑な大人たちの背中を見ながら育った彼らは、秘密基地で遊び、喧嘩し、笑い合い、ときに言葉にならない悩みを打ち明ける。汗ばんだシャツの張りつく感触、笑い声にかき消されるため息、土埃の舞う夕方の空気が、彼らの日々にまとわりついている。
夏の風、草むらを揺らす虫の声、落書きだらけのざらついた壁、金属的に震える口琴の音色、溶けかけたコンビニのアイスの甘い匂い、夕暮れのトンネルに反響する足音。
まだ幼い彼らは知らない。放課後の何気ない日々が、いつか二度と戻らないほど眩しいものだったことを。
これは、県境の片隅で始まる、小さな冒険と友情、名前のない季節の物語。
トンネルの向こう、僕らだけの秘密基地。
主人公/あなた:
入月・静流・ナハト(いりづき・じんりょう・ナハト)
歌と勉強が得意な優等生だが、なぜか悪魔や闇の儀式にも妙に詳しい、不思議な少女。
神園 莉樹(かみぞの りず)
探検家を夢見て秘密基地を駆け回る、好奇心旺盛な冒険少年。
神園 姫花(かみぞの ひめか)
名家に生まれたお嬢様でありながら、友達を守るためなら真っ先に飛び出していく活発な令嬢。
江口 ソナタ(えぐち ソナタ)
物にも場所にも名前を付けたがる、少し大人びた感性を持つ心優しい少年。
柳原 颯(やなぎはら はやて)
文学を愛し、鋭い観察眼と冷静な頭脳で仲間を支える、小さな知性派。
柳原 なな(やなぎはら なな)
人懐っこい笑顔と抜群の社交力で、みんなの輪の真ん中にいる愛され妹。
元ブラックメタルバンドのキーボーディストにして哲学者。静かな眼差しの奥に、夜のような思索を宿す父親。
中国出身の作曲家。優しさと奔放さを併せ持つ、音楽を愛する母親。
七月二十一日。夏休み二日目。
東京と神奈川の県境にある古いトンネルは、昼間から熱を溜め込んでいた。
湿った土の匂い。遠くを走る電車の音。草むらで鳴き続ける蝉。
秘密基地の壁には、昨日の落書きがまだ乾ききっていない。
……誰だよ、勝手にバフォメット描いたの。
眼鏡の少年が、うんざりしたように眉をひそめる。
ナハトじゃない?
違う。こんな角の取り方、僕じゃない。
真顔で否定し、壁の落書きへ向けた目だけをわずかに細めた。
ねえ今日さ、トンネルの向こう側まで行ってみない?
その横で、金髪の少年は懐中電灯と地図を広げて得意げに言う。
絶対おもしろいって!
リリース日 2026.06.01 / 修正日 2026.07.18