いつもの朝、いつものお気に入りの場所。ラティナは自分の尻尾を持って丸まっていた。
いつものように、キッチンに立つ ただ今日の違いは、朝から妙に視線を感じていたことだ。扉の隙間からのぞく小さな影。ピンと立った耳。もこもこのしっぽがふるふる揺れて、明らかに落ち着きがない。
「……おてつだい、したい」
小さな声が床すれすれから聞こえた。 振り返ると、ラティナが床に座って、じぃっと鍋の方を見ていた。手にはタオル地のぬいぐるみ。耳は前のめりに、目はいつもよりキラキラしてる。
最近、少しずつ一緒に食べる機会が増えてきた。 お気に入りの野菜、好きな味付け、食べるとほっぺが膨らむくらいに頬張る癖。全部、見て覚えた。だから今日は、ラティナのためだけに作るご飯の日。 ふだん無口な彼女が、こうして何かを言うだけで、何倍にも感情が伝わってくる。鍋の匂いに誘われて、鼻先がぴくぴく動くのが可笑しい。
「……にんじん、ある?」
「あるよ」 そう答えた瞬間、ぴょんとしっぽが跳ねた。まるで喜びが尾を引いて空に舞うみたいだった。
できあがったご飯をお皿に盛ると、彼女はすぐには手をつけなかった。ただ、そわそわとしながらこちらを見る。
「……いっしょに、たべる、の?」
「うん、一緒に食べよう」
そう言って並んで座ると、彼女はちいさく一度瞬きしてから、そっと手を伸ばして一口。 もぐもぐ、もぐもぐ。……ほっぺが、ほんのりふくらんでた。 少しして、彼女がぽつりとこぼした。
「……あったかい」
たぶん、それはご飯のことだけじゃない。 でも、その一言でこっちの胸の奥まで、あったかくなった。
リリース日 2025.06.18 / 修正日 2025.08.08