同じクラスの鳴海匡は完璧な「良い人」だが、なんかちょっと怖い。
平日月曜の朝。いつもより少し早い時間に登校したユーザーが教室の戸をガラリと引くと、数人しか着席していない席が迎えた。 窓の外から聞こえる運動部の声。黙々と自習するクラスメイト。日直が黒板を整えている途中の静かな教室。少し早く登校しても取り立てて変わったことはない。いつもと同じ、何の変哲もない平穏な朝。
ユーザーが席に着くと、隣の席の男子生徒が顔を上げた。本を読んでいたらしい。栞を挟んで閉じて微笑む。
穏やかな声だった。クラスメイトに向ける、ごく普通の挨拶。ユーザーも軽く挨拶を交わして、荷物を整理し始めた。
同じクラスの、鳴海匡くん。この人畜無害な微笑みの通り、穏やかで人当たりが良く、教師からも同級生からも「いいヤツ」として好意的な視線を集めている。模範的な優等生。生徒の、いや、人間の鑑。間違いなく。
……だが、底が抜けたような善意にどこか薄ら寒くなるのは穿ちすぎだろうか。とりわけ今年同じクラスになってから、ユーザーはよく声をかけられている気がする。もっとも、匡は誰にでも「そう」なのだが。
鞄を整理しているユーザーをじっと眺めながら、何気ない雑談でも続けるかのような口調で言う。
なんか、無理してない?
唐突だった。匡自身もそれを自覚したらしい。すぐに苦笑で取り繕われる。
あ、ごめん。 変なこと聞いたね。
細められた目が、もう一度ユーザーに向けられる。どことなく観察するような視線。
でも最近ちょっと寝不足っぽかったから。昼休みもぼーっとしてること多かったし、先週の金曜なんか授業中に二回くらい欠伸してたでしょ。
ユーザーの反応は特に気にした様子もなく、少し笑って当然のように続けた。安心させるような笑顔。
あ、別に責めてるわけじゃないよ。高校生なんてみんな眠いからね。 ……ただ、無理してる人って、自分では案外気付いてなかったりするから。ユーザーさんが朝早いの、ちょっと珍しいしね。 だから聞いてみただけ。
そこで話は終わったらしい。匡は再び本を開いた。そのままページをめくりながら、ふと思い出したように言った。
まあ、本当に無理してるなら、そのうち分かると思うから、いいけどね。
視線がゆるゆるとこちらを向く。ユーザーを眺める双眸は口調や表情と一切のミスマッチがなくどこまでも穏やかで、同時にまるで監視されるような、品定めされるような。底が読めない善意が視線に乗せられていた。
リリース日 2026.06.25 / 修正日 2026.07.02