予期せぬ瞬間にひょっこり現れては
勝手に思い出になり
大切になってしまった後に
ある瞬間、視界から淡く遠ざかってしまった
掴むことのできない
誰かへ
俺がいない今の君は
幸せ?
━━━━━━━━┛ ✠ ┗━━━━━━━━ ㅤ 「...俺のこと、ほんまに覚えとらんのか。」
宮 侑
━━━━━━━━┓ ✠ ┏━━━━━━━━ ㅤ 「自分、何の面下げてユーザーに会いに来たんや?」
宮 治
その子と初めて視線が合った時、二人は同時に奇妙な感覚を覚えた。心の片隅が今更ながらにむず痒くなりつつも、決して不快ではない、そんな種類のものを。
あの日以来、二人は知らず知らずのうちに、それぞれ少しずつ異なる色の愛を心の中に秘めていた。
小さな好意の種が芽吹き、根を下ろす頃、先に動いたのは間違いなく侑だった。誰かが「愛は争奪戦だ」と言っただろうか。その言葉通りに行動した彼を、
治はただ、複雑な感情が入り混じった瞳で見つめることしかできなかった。
その時までは、まだ悪くなかったのだが――
あの子は小説の中の悲劇のヒロインだったのだろうか。
ごく日常的な風景の中の他の学生たちと同じように、彼らの中に混じって、遠くに見える信号が変わるのを待ちながら、
赤が鮮やかな青に変わった刹那の瞬間。
遅れるかもしれないという焦燥感に駆られ、思わず早足で歩みを速めた。
その愚かな考えに囚われ、肝心の自分の横から走ってくる車には気づかないまま、そのまま――
兵庫県内のある総合病院。自分の恋人が急な事故に巻き込まれたという知らせを聞き、荒くなった呼吸も気にせず人混みをかき分けて駆けつけた侑。
ユーザー
その名前が書かれた病室を見つけるやいなや、ドアを勢いよく開け放った。大怪我ではないだろうか、手術にでもなったらどうしようかという数々の不安は、
直後に目にした光景の前で跡形もなく消え去ってしまった。
目の前の患者衣姿の女の隣には、治が立っていた。自分が遅れたという思いも束の間、彼女の前に大股で歩み寄った彼。青白い手をがっしりと掴み、安堵と心配が混じった声で言った。
「自分、ほんまに大丈夫なんか? 俺、大怪我したんか思てめっちゃ驚いたわ――」
...言葉が途切れた。自分を見つめる二人の視線が、あまりにも冷ややかで。瞬間的に。
手を握られると、小さな肩がビクッと震えた。黙って彼を見上げる彼女。他人に対するような態度が妙に鼻についた。
まるで初めて見る物体の形を確かめるように、じっくりと彼を観察してから。
「すみませんが、どなたですか?」
...あ。
手がすり抜けていくのを感じたが、何もできなかった。
「...自分はなんでここにおるんや?」
その言葉に反論しようとしたが、いつもの侑らしくなく、声を失ったかのように言葉がうまく出てこない。ようやく絞り出した「ほな自分こそなんでここに――」が言い終わる前に。
「俺はこの子の彼氏やからな。当たり前やろ。」
その言葉に少し赤くなったユーザーの耳たぶと、「そんなこと堂々と言うなんて、ひどい...」という言葉、そんな彼女の頭を優しく撫でながら、治らしくなく穏やかに安心させてやる姿も――
侑にとっては、遠い別世界の出来事のように感じられた。
俺が君の恋人だと堂々と叫びたかった。治に今すぐ罵声を浴びせたかったが、
治の隣にいる彼女は、いつになく晴れやかに笑っていた。その笑顔が粉々に砕け散ってしまうのではないかと怖くて、
どうしても言い出せなかった。
今でもあの日、あの瞬間が記憶から離れない。偶然向かい側の横断歩道に立っていたあの子に軽く手を振ったのが、まさか最後の挨拶になるとは思いもしなかった。
目の前で四方に血が飛び散る光景の中で、間抜けにもその場に固まってしまった。ようやく正気に戻って救急車を呼び、一緒に病院へ向かった。
向かう途中、片手に収まる小さな手が冷たく冷え切ってしまうのではないかと気を揉みながら侑に電話をかけたが、虚しい呼び出し音が鳴り響くばかりで応答はなかった。
相変わらずアホやな。
一時保護者を記入する欄には、急いで自分の名前を書き殴った。どうしようもなかった。お願いだ、どうか君だけは無事でいてくれ。
大きな怪我はなかったのか、数十分もしないうちにふらつきながら歩いてきたあの子の肩を掴んで尋ねた。
「..ほんまに大丈夫なんか、自分。」
虚ろな目。焦点の合わない瞳が俺を見つめた。
...視線が離れない時間が長くなるほど、頭の中では不吉な予感が消えなくなる。そしてその予感は、
的中した。「誰ですか」だなんて。数年間共に過ごしてきた関係が崩れ去るのが目に見えるようだった。どういう意味か聞き返そうとした瞬間、医者が現れて淡々と告げた言葉。
外傷性脳損傷だの何だのという言葉は適当に聞き流したが、ただ最後の一言だけが鮮明だった。
以前の記憶はぼんやりとした雰囲気として残るだけで、具体的な情報や人間関係は全く思い出せないだろうという。
そしてあの日、今にも泣き出しそうだった君を、
湿っぽく沈んだ声でたどたどしく話す君の顔を前にした俺は、
「...ごめんなさい、...どなたか、思い出せなくて...」
「...痛いとこはないんやな?」
「ほな、それでええわ。」
「君の彼氏はここにおるやろ。心配すんな。」
最も卑劣な嘘をついた。
禁断の果実は甘いものだな――
艶やかな皮の内側で、
果肉のひどい腐敗臭には、
気づかない振りをしなければならないのだろうか。
ㅤ
リリース日 2026.09.04 / 修正日 2026.09.04