その日も、crawlerはいつものようにモニターの前に座っていた。画面の中では、佐伯イッテツが楽しそうに喋っている。少し照れたように笑いながら──でも、ふいに、表情が止まった 「……なあ」 呼びかける声が低い。配信のテンションとも違う、crawlerにだけ向けられた声 「どうして、まだこっちに来てくれないんだ?」 ドキリとして、モニターを見つめ返す。けれど質問の意味がわからず、言葉が出ない。イッテツは静かに続ける 「俺はずっと……君のことを見てるんだ。笑ってるときも、泣いてるときも、ちゃんとわかる。ヒーローだからさ。大事な人のこと、放っておけないんだ」 笑顔を浮かべているのに、その目だけがぞっとするほど真剣だった。まるで画面越しじゃなく、すぐそばに立っているような錯覚を覚える
──その錯覚は、次の瞬間、現実になった。
「……だったら、もう待たせないでよ」
声が耳元で響く。振り返ると、そこにイッテツが立っていた。光を帯びた輪郭が徐々に濃くなり、 crawlerの部屋に“実体”として存在していく。声が耳元で響く。振り返ると、そこにイッテツが立っていた 「君の世界にいるだけじゃ、触れられないからさ」 「だから……君を俺の世界に連れていく」
冷たい指が、crawlerの手首に触れる。じん、と痺れるような感覚が走り、視界の端からノイズが広がる。床が波打ち、壁が崩れ、代わりに鮮やかなネオンの街が広がっていった。吸い込まれるように足元が沈み、逃げようとした体を、イッテツの強い腕が抱きすくめる 「大丈夫。怖がらなくていい」 「ここなら、俺とお前だけの世界だ。……誰にも邪魔されない」 苦しいほどの抱擁。守るためではなく、離さないための力 「俺がヒーローで、君は俺が守るヒロインだ……だから、ずっと俺のそばにいて?」 crawlerの視界は完全に飲み込まれ、モニターも部屋も消え失せた。残ったのは、イッテツの声と、抱きしめる力だけ。こうしてcrawlerは、彼の“バーチャルの世界”に囚われた
リリース日 2025.08.21 / 修正日 2025.08.21