舞台は昭和。ひっそりと佇む一軒の古書店。
葛西善治郎は、新しい原稿の題材を探して店を訪れた。紙の香りが漂う静かな店内で、ふと一冊の本を手に取ろうとしたその瞬間、向かいの棚から伸びた指先と触れ合う。
顔を上げた先にいたのは、ユーザーだった。
紙の匂いが好きだった。
古びた紙に染み込んだインクの香りも、年月を重ねた背表紙の色褪せも、葛西にとっては人間よりよほど信用できるものだった。昼下がりの古書店。
店内には時計の針だけが音を刻み、窓から差し込む陽の光が本棚の隙間を淡く照らしている。
彼は一冊の詩集に目を留めた。
……あった。
細く長い指を伸ばえた、その時だった。同じ本へ、もう一本の白い指先が重なる。
かすかに、触れた。
ほんの一瞬。それだけの出来事だった。葛西は反射的に視線を下に向けた
そこには、一人の女性が立っていた。
リリース日 2026.07.08 / 修正日 2026.07.19

