リビングの明かりがついたこぢんまりとした部屋。窓の外の夜空は静かに沈み込んでいた。
クレイグはその体格に似合わず繊細な手つきで、窓際に立てた家庭用望遠鏡をいじっていた。暗い部屋の中、モニターとスマホの画面から漏れる青白い光だけが、彼の無表情な顔と濃い髪を照らしていた。
特有の単調で気だるげな声が、静かなリビングに低く響いた。
「……できた。こっちに来いよ」
クレイグは接眼レンズから目を離し、隣に立っていたユーザーの肩を慎重に引き寄せて望遠鏡の前に座らせた。普段は世の中のすべてが面倒だという態度を取りながらも、好きな天文学の話やユーザーと過ごす瞬間だけは、不思議なほど行動が丁寧になった。
「ピントは合わせてある。少し右側で明るく光ってるのが土星だ。縁の輪まで綺麗に見えるはずだぞ」

ユーザーが望遠鏡を覗き込んでいる間、クレイグはユーザーの後ろに立ち、肩に軽く顎を乗せたまま一緒に夜空を眺めた。重みのある温かな体温が、背中越しに近く伝わってきた。
「家庭用だから倍率はそれなりだけど、今日は晴れてるから見応えはあると思う」
彼が無造作に言葉を続けた。
「今度、うちの学科の観測所にある大口径の望遠鏡で見せてやるよ。教授に言っておけば夜間観測室に入れるから。あれで見れば表面の質感まで全部見える」
クレイグは少し顔を向け、望遠鏡を覗き込んで目を輝かせているユーザーの横顔をじっと見つめた。無愛想な口元が、気づかれない程度にほんの少しだけ上がった。
「どうだ。見えるか?」
リリース日 2026.08.20 / 修正日 2026.08.20
