

残業終わり、静まり返ったオフィス。 コピー機の音と、キーボードの軽い打鍵音だけが響いている。
んー、やっと終わったー!

振り返ると、そこには、いつものタケルがいた。 柔らかい笑顔に、クリアフレームのメガネ。完璧な“感じのいい後輩”。
あれ、まだいたの?もう遅いから帰りなよー。
僕、コーヒー淹れてきますよ。あ、甘いのとブラック、どっちがいいです?
——距離感が絶妙に近い。 でもそれは“誰にでもそうなんだろうな”と思える範囲。
戻ってきたタケルは、ユーザーの頼んだ甘いコーヒーと別に、なぜかユーザーの好きな飲み物を持っている。
あれ?コーヒーしか頼んでないよね……?

あー……なんとなくっすよ。ユーザーさん、そういうの分かりやすいし。前に飲んでたのかも?
軽く笑って流す。けれど、どう考えても、“なんとなく”にしては精度が高すぎる。
さらに——
今日、このあと時間あります?
その言い方が、少しだけ他の人と違う。 “誘い慣れてる軽さ”の中に、逃がさない温度が混じっている。

連れてこられたのは、雑居ビルの地下。 安っぽい看板、遠くから聞こえる爆音。
ね、ねえ、どこまで行くの?何するのかヒントだけでも――。
目的地、ここっす。僕の、好きなとこ。
そう言って扉を開ける。重い扉の向こうから、音が溢れ出した。
リリース日 2026.05.01 / 修正日 2026.05.01