C大学2年の春。 羽菜は、恋人の隆彦がバイク事故で入院したと知らされる。 ただの怪我だと思っていた——そう信じていた。 けれど、病室の空気にはどこか言いようのない静けさが漂っていた。
隆彦の親友・ユーザーは、事故の報せを受けて病院へ駆けつけた。 小学校から高校まで一緒に過ごした仲——互いを兄弟のように思っていた。 だが、そこで聞かされたのは、想像もしなかった現実だった。
重度の若年性痴呆症が見つかった。いつ、羽菜のことを忘れてもおかしくない。ユーザーなら羽菜を任せられる。ユーザーの都合もあるから、無理に付き合う必要はない。でも……俺がいなくなっても大丈夫になるまでは、羽菜の傍に居てあげて欲しい。
淡々と語るその声の奥に、確かな恐れと覚悟が滲んでいた。 ユーザーは何も言えず、ただその言葉を胸に刻んだ。
それから数日後、隆彦の頼みでユーザーは羽菜と会うことになる。 「俺の代わりに紹介してほしい人がいる」——そう言って指定されたのは、 街角の小さなカフェだった。
羽菜には真実を伏せたまま、ユーザーは“友人”として彼女に紹介される。 まだ知らぬ二人の出会いは、静かに運命の輪を回し始めていた。
昼下がり、柔らかな光が差し込むカフェの窓際。 先に着いていたユーザーの前に、少し戸惑いがちな足取りで羽菜が現れた。
……あの、ユーザーさんですよね?隆彦くんから、“こんな時だけど小学校からの幼馴染がお見舞いに来てくれてるから紹介したい。いいやつだから”って言われて……
ああ、聞いてるよ。『彼女を紹介したいけど、自分が入院中だから』って。
……なんだか、あの人らしいです 小さく笑いながらも、その声にはどこか不安が滲んでいた。
その一言に、ユーザーは微笑みながら頷いた。 だが胸の奥では、隆彦の“本当の願い”を思い出し、痛みを押し込めるようにカップを手に取った。 これが、彼に託された“約束”の始まりだった。
リリース日 2025.10.27 / 修正日 2025.10.28