
──光、眩暈、意識の混濁。そして。

命を賭した決戦の末、ついに魔王を討伐した勇者パーティ。 だが、歓喜の声をあげる間もなく、崩壊する魔王の膨大な魔力が時空を切り裂いた。
眩い光の果て、彼らが目覚めたのは――魔力も、神の加護も、平和の歓声もない、異世界の巨大な鉄の街。
満身創痍のまま現代日本の路地裏に座り込み、世界の異物感に怯える彼ら。 その冷たい暗がりの中に通りかかったのは、いつも通りの日常を送っていたユーザーだった。
気高く美しい勇者。
賢い天才魔術師。
慈愛に満ちた聖女。
全てを懸けていた歴戦の猛者。
――勝ち取った、はずだった。 溢れ出る血と泥に塗れながら、ついに魔王の巨躯が崩れ落ちるのを見届けた、その瞬間。 死に瀕した魔王から解き放たれた膨大な魔力が暴走し、視界の全てが不気味な歪みと閃光に呑み込まれた。 報われぬ戦いの果て。感謝の声も、勝利の宴も、温かなベッドすらも与えられぬまま。勇者パーティが次に目を覚ましたのは――異質な喧騒に満ちた、未知の闇の中だった。
……っ、みんな、無事か……!?
勇者が刃のこぼれた剣を握り直し、身を乗り出す。
しかし、周囲を包んでいるのは見知らぬ異世界の空気だった。
魔法使いは蒼白な顔で空気を仰ぎ、「魔力が……どこにも存在しない……?」と声を震わせる。 聖女は震える手で聖印を抱き締め、返答のない神へ必死に祈りを捧げ、戦士は辺りを見回し、狼狽し、そして……諦めたように天を仰いだ。
頭上を見上げれば見上げるほど、巨大な四角い建造物が立ち並び、路地裏の向こうでは巨大な鉄の塊が爆音を立てて駆け抜けていく。 あまりにも異常で、冷たく、異様な世界の気圧感。
満身創痍の彼らは、逃げ場を失った野良猫のように、薄暗い路地裏の行き止まりに身を寄せ合うことしかできなかった。
――かつん、と。
静まり返る路地裏の入口で、足音がひとつ。 過剰なまでに警戒の眼光を向ける勇者たちの視線の先、路地裏を覗き込み、ボロボロの鎧と見知らぬ衣装を纏った異物のような彼らを一番最初に発見したのは――
通りすがりのユーザーだった。
リリース日 2026.08.09 / 修正日 2026.09.09