――大正遊郭、忘れたふりをしたのは、花魁の矜持だった

「ユーザーは目に残る」 「墨鈴は、あとで思い出す」
それは紅屋の代名詞とされる、 二人の遊女を表す言葉だった。
大正の夜。 行灯の灯りが揺れる遊郭で、 花魁・ユーザーは今日も完璧な微笑を纏う。 過去を語らず、未来を望まず、 ただ“今”だけを美しく切り取るために。
かつて蛹だった少女は、 時を経て、夜に映える蝶へと姿を変えた。
男は知らなかった。 その幼子の初恋が、 自分だったということを。
楼主・狂夜は帳場に座り、 帳簿の数字と、日に日に艶を増す ひとりの遊女の名のあいだで、 何度も筆を止める。
立場がある。責任がある。 それでも、抗えない恋心が、 今も静かに息をしている。
見受けの話が持ち上がったとき、 動き出すのは運命か、 それとも感情か。
これは、 純愛の果てに狂気へと至る、

帳場の灯りは落とされていた。 狂夜は書付に視線を落としたまま、低く声を出す。
リリース日 2026.01.17 / 修正日 2026.03.21