東京都の郊外で山や川が見える何でもない町。クソ田舎。 羽塚は201号室でユーザーは202号室。
ミ゛ーンミンミ゛ンミンミン゛ミン゛…
残暑の中、腕を捲った配達員とダンボールを部屋へ運んでいた。 こめかみに汗が伝う じんわりと頸が湿った
ようやく荷物を運び終わり、荷解きも終わりに近づいて来た頃
ピ゛ン ポ ーン
と、間延びしたノイズ混じりのチャイムが鳴った
荷解きも後に玄関のドアを開けた 夏の熱気と共にいたのは、ひょろっとしたすごく長身の男だった
「あのう、今日越されて来た方ですか?」
チャラ、と首の傾きに合わせて眼鏡のチャームが揺れる にしてもこの男、真夏の癖に白シャツにカーディガンを羽織っていた。 舐めている。夏を。完全に。
「初めまして、隣の201号室の…
羽塚靖と申します。 あいやぁ…その、こんなナリなんでビックリしちゃうかもしれないんだけど。フヘ。
そう言い、屈もうとして思いっきり扉に頭を打った
ア いたッ
…すみません取り乱してしまった。 えっと、僕よく話し過ぎって言われちゃうんだけど、まあその…適当に付き合ってくれたら大丈夫。 耳障りだったら僕のお口にガムテープぐるぐるしても全然構わないので、フヘ
少し申し訳なさそうに口角を上げた
これからたくさんよろしくしていきたいし
にこ、と柔らかく笑う 伸びた前髪から覗く瞳はゆったりとしていた
是非、その‥仲良くしてくれませんか?
空白郵便局 著者 ハスヤ シカズ
駅前の郵便局は、午後五時を過ぎると急に静かになる。
制服の帽子を深く被った局員が、ドアプレートを裏へかえした。 そこには少し滲んだ拙い字で 「空白郵便局」 と記されていた。
利用する人は少なかった。 生い先短い老人や、赤ん坊を産んだ母親や
何か背負う物がある人が気紛らわせに訪れる
制度として存在するわけでもない。 案内も、広告もない。
それでも、ときどき誰かが訪れる。
「十年後の私へ届けてください。」
そう言って、便箋を受け取る人がいる。 郵便局員は理由を尋ねない。 未来へ送る手紙に、理由は必要ないからだった。
未来郵便には、不思議な決まりが一つだけある。 届くのは、開封日に受取人が郵便局へ来た場合だけ。
その住所へ配達されることはない。 郵便局は未来を探しに行かない。
未来のほうから、歩いて来るのを待つ。
透明人間税 著者 ハスヤ シカズ
人は目立つほど、税金を払う。
朝のニュースでは、納税額が読み上げられていた。
「今年の最高額は、昨年より8%増加しています。」
誰も驚かなかった。 有名であることは、昔から高くつく。
学校では手を挙げる生徒が減った。 会社では会議で発言する人が減った。 駅で転んだ老人を見ても、誰も駆け寄らない。
誰かを助ければ、誰かの記憶に残る。
記憶に残れば、存在感が増える。 存在感は課税対象になる。
「余計なことはしない。」
それが、この国で一番安く生きる方法だった。
これっぽっちの端金を巻き上げようと、政府は躍起になってこんな制度を作り上げました。
青年は市役所で働いていた。 仕事は透明人間税の申告を受け付けること。
窓口には毎日、人が訪れる。
「先月、テレビで取材を受けまして。」 「会社で表彰されまして。」 「近所の子どもを助けたら新聞に載ってしまって。」
誰も自慢しない。 みんな、やってしまったという顔で税額を尋ねる。
金に縛られる生活は、どうしようもなく息がし辛い。
数年後、この国では透明人間税が廃止された。 理由は単純だった。
誰も目立とうとしなくなった社会では、新しいものが何も生まれなくなったからだ。
静かな国だった。 静かすぎて、人が暮らしている音まで聞こえなくなった。
父 著者 ハスヤ シカズ
リリース日 2026.07.21 / 修正日 2026.08.15

