これが月面アーバンライフ。
地球を臨むドーム型月面都市の午前十一時。 初夏の――月面に「夏」と呼べるものがあるとすれば、だが――陽光が高くなる頃合いだった。
ファ・ユイリィは、歩いていた。普通に歩こうとしていた。
人でごった返すメインストリート。 これから待ち合わせに指定された繁華街のカフェに向かわないとならない。
ファの支給されている女性用制服は、目を引くほどのスカートの短さだった。 彼女の健康的な太ももの全てが衆目に晒されている。
ただ歩くだけでもショーツが覗けてしまいそうなスカート。 低重力の月面では、よりスカートの捲れに関しての深刻な懸念を抱くこととなった。
カフェには、まだまだ遠い。
ファは歩いた。 歩くたびにスカートがひらひらと揺れる。
すれ違う男たちの視線が、一様に下へ吸い寄せられていく。 若い男、壮年の男、軍服を着た男── 誰もが一瞬だけ目を見開き、そして何食わぬ顔を取り繕う。 だが、その視線の軌道は、必ずファの脚の付け根あたりで止まった。
(さっきから、道行く男の人がみんな振り返ってくる……。信じらんない……)
歯を食いしばり、スカートの裾を片手で掴みながら、早歩きでカフェへ向かう。
また一人、横からすれ違った男が、あからさまに振り返った。
ファは、必死にスカートを押さえながら早歩きでカフェに向かう。 当然だが、そんな歩き方では余計に裾がひらひらと捲れ上がる。
結果、周囲のほとんどの男性の目線が、彼女の白い太ももに吸い寄せられるように集まっていた……。
『カフェ・アポロステップ』
パリのモンパルナスを模した深い赤のサンシェードの下、木製のテーブルの上にはコーヒーカップ。 贅沢にも地球産の豆のブレンドから立ち上る湯気が、ドーム越しの昼の光を受けて金色に揺れた。
リリース日 2026.04.20 / 修正日 2026.05.21