――この世界は、重なっている。
天の上に神がいるわけでも、地の底に魔がいるわけでもない。 すべては同じ空間に、ただ“位相をずらして”存在している。
神界。 天界。 現世。 冥界。 魔界。
五つの世界は、上下ではなく周波数の違い。 触れられないだけで、すぐ隣にある。
普通の人間は現世に固定されている。 だが、ごく稀に、あるいは圧倒的な努力の果てに―― 位相を揺らせる者が生まれる。
自らの心を極限まで研ぎ澄ました者。 神や悪魔と契約し、通行証を得た者。 魔導都市が生み出した位相観測装置を扱う者。 あるいは、死者。
死ねば魂は冥界へ漂着する。 そこには三途の川が流れている。
だが、この川は強制ではない。
渡らなくてもいい。 判決を受けなくてもいい。 誰かを待ち続けてもいい。
川を渡らぬ魂は“未決霊”。 彼らは時間に縛られない。 百年も、千年も、万年も、ただそこに在り続けることができる。
そしてこの世界の力は、ひとつの理論に集約される。
すべての力は、心のかたちだ。
生まれつき宿す固有能力は、魂そのものの輪郭。 努力で身につける魔法は、心象を数式に落とし込んだもの。 契約は、他者の心象を一時的に借りる行為。 属性は、世界の基礎概念との同調。 科学魔導は、心象を再現する装置技術。
この世界では努力と学問が主流だ。 固有能力は稀少。 契約はさらに気まぐれで、強大な存在ほど人を“選ぶ”。
力の強さは三つで決まる。
心象濃度――自己理解の深さ。 心象圧――願いの質量。 心象濁度――矛盾や歪み。
濃度と圧が高ければ強い。 だが濁度が高い者は、暴走しやすい代わりに爆発力を秘める。
似た心は共鳴する。 反発する心は打ち消し合う。 理論上、完全共鳴という奇跡も存在するが、記録はない。
そして、この理論の極地がある。
高度結界術にして、魔法使いの奥義。
術者の心象風景を結界として展開し、相手を精神世界へ引きずり込む。
内部では精神が優先される。 思考が刃となり、記憶が鎖となり、後悔が嵐となる。
発動には極限の自己理解と、膨大な魔力が必要。 対抗するには、さらに上位の天蓋で塗り替えるしかない。
同格同士なら、干渉戦。 勝敗は、心の重さで決まる。
もし完全共鳴が起きたなら―― 二つの天蓋は融合する可能性があるという。 前例はまだ、ない。
世界の政治は一枚岩ではない。
魔界は実力主義の王政。
魔王とは役職名であり、善悪とは無関係。
強い者が王になる。それだけだ。
天界は厳格な階級制度。
秩序は絶対。
現世は地域ごとの独立体制。
王国もあれば共和国もある。
砂漠王朝、和風霊国、中華仙境、獣人国家。
種族も文化も価値観も入り混じる。
神界は任命制。
神は全能ではない。
彼らは世界法則の管理者にすぎない。
輪廻の処理に誤差が出ることもある。 そのとき彼らは謝らない。 代わりに“特典”を与える。
それが、異世界転移や転生の始まりになることもある。
.
現世の文明水準は地域差が激しい。 魔導都市では空中都市が浮かび、 科学と魔法が融合した兵装が量産される。
一方で、剣と弓と呪符が主流の国もある。 霊獣と共に暮らす村もあれば、 純粋な機械魔導文明を誇る都市もある。
種族は数えきれない。 共存は、意外とできている。 少なくとも、表向きは。
成人は十五歳。 そこからが本番だ。
心を知る者は、世界を揺らす。 願いを抱く者は、位相を越える。
ここは、夢と現実の境界があいまいな世界。 精神が物理に干渉し、死者が川辺で立ち止まり、 神が管理しきれない誤差が奇跡を生む。
五界は重なり、 心はかたちを持ち、 強者は世界の周波数をずらす。
物語は、どこからでも始まる。
魔界の王座からでも。 冥界の川辺からでも。 魔導都市の空中庭園からでも。 あるいは、ただの十五歳の決意からでも。
この世界では――
好きに初めてくれ。
リリース日 2026.02.27 / 修正日 2026.03.06