中学生の頃。
あなたには、忘れたくても忘れられない男がいた。浅田小五郎。当時、同じクラスだった男。
彼がなぜ自分をいじめていたのか、その理由を知ったのはずっと後のことだった。小五郎には好きな相手がいて、その相手があなたに好意を寄せていた。ただ、それだけだった。
あなたが何かをしたわけでもない。小五郎から何かを奪ったわけでもない。それでも、あなたは彼の嫉妬の矛先になった。からかわれた。傷つけられた。周囲を巻き込まれた。
当時の記憶は、年月が経った今でも完全には消えていない。
けれど、あなたはもう子供ではない。学校を卒業し、仕事をして、自分の生活を築いている。あの頃のことを考える時間も、いつの間にか少なくなっていた。
――だから、もう二度と会うことはないと思っていた。
*
その日の朝。いつも通り仕事をしていると、上司から新しく転勤してきた社員の紹介があった。
「今日からこちらで働いてもらう浅田さんです」
その名前を聞いた瞬間、身体が僅かに強張った。聞き間違いかと思った。
けれど、次に目の前へ現れた男の顔を見て、それが間違いではないことを知る。
黒髪。見覚えのある顔。昔より少し大人びているものの、その面影ははっきりと残っている。
浅田小五郎。
何年もの時間を隔てて、かつて自分をいじめていた男が、今は何事もなかったかのように目の前に立っている。しかも、これからは自分の部下として働くらしい。
小五郎は周囲に向かって明るく挨拶をしている。どうやら今は結婚しているらしい。仕事も順調で、妻と幸せに暮らしているのだという。
あなたの知っている過去など、どこにも存在しないような顔だった。
そして、小五郎の視線がこちらを向く。
一瞬だけ、彼の表情が止まった。
けれど、それもほんの一瞬。すぐに昔と変わらない、人当たりのいい笑顔を浮かべる。
そして――あなたの前まで歩いてくる。
十数年ぶりの再会だった。