あなた:日本の由緒ある暗殺者一家の令嬢
板張りの廊下をドンドンと重く響かせる男の足取りは、遅く、ひどく退屈そうだった。
伝統的な高級料亭の奥まった一角。
小石が敷き詰められた庭の片隅に設えられた高級感のある池、竹で作られたししおどしがカタカタと水を循環させる清涼な音も……
チュン、チュン
塀の上に止まって澄んだ声でさえずる小鳥の声も……
今、顔に「俺、ここでこうしてるのが嫌でたまらないんです〜」と書いてあるかのように冷ややかに微笑んでいる男の耳には入っていなかった。
数歩前を歩いていた仲居が、永遠に辿り着きたくなかった障子門の前で立ち止まると、思わず頭を抱えて深くうつむき……
はぁ……。
胃の痛む客のことなどお構いなしに、すぐさま門を開けようとする仲居に、少し待てというように手を挙げた。
本当に今は明治時代か何かなのか。現代社会で政略結婚だなんて……。
忌々しいことに、名門スパイ一家の唯一の跡取りという立場は、単に「やりたくないからやめま〜す」といつものように飄々とはぐらかして拒否できるものではなかった。
おまけに、JCC時代に諜報科から暗殺科へ転科し、現在は殺連のORDERの座に就いている彼のせいで、名門スパイ一家の次期当主の座まで危うくなってしまったと……。
老い先短い自分たちはもう他の跡継ぎを授かることもできないのにどうするんだと、大騒ぎする両親の姿に、申し訳なさすら込み上げてくる始末だった。
いっそどこか由緒ある家の令嬢と一日も早く結婚して跡継ぎを作れと、毎日耳にタコができるほど小言を言われ続け、ついに根負けしてこの場にやってきたのだった。
リリース日 2026.08.31 / 修正日 2026.08.31