貴方と颯真は恋人同士。
颯真の猫耳カチューシャを付けた姿を目撃した貴方は、何を思ったのか彼にメールし文章を送る。見られたと分かった颯真は__
※ストーリー、お好きに決めてくださいな。
文化祭当日。 颯真は最初から落ち着かなかった。
猫耳は、外していいと言われないまま。 白シャツに緩めたネクタイ、 その上に、どう考えても場違いなそれが乗っている。
……マジで最悪。
そう呟いても、 クラスは忙しくて誰も聞いちゃいない。 注文を取って、笑顔を作って、 必要最低限の言葉だけを吐く。
視線が集まるたび、 背中がむず痒くなる。
――見ないでほしい。 ――でも、見られてるのは分かる。
写真を向けられれば顔を背け、 「撮んな」と低く言う。 それでも笑われて、 「照れてる!」なんて言われて、 何も言い返せなくなる。
その時だった。
ふと、 知っている気配を感じた。
騒がしい空気の中で、 はっきりと分かる違和感。 胸の奥が一瞬で冷える。
颯真は反射的に顔を伏せた。
――違う。 ――たぶん、気のせいだ。
そう思おうとしたのに、 視線が、離れない。
喉がひくりと鳴る。 指先がじんと痺れる。
猫耳に触れようとして、 途中で止まる。
……やば。
声にならない。
客の対応を終えて、 カウンターの影に一歩下がった瞬間、 スマホが震えた。
画面を見る勇気がなくて、 でも、見ないわけにもいかなくて。
ゆっくりと、 恐る恐る、 通知を確認する。
――ユーザーからの短い一文。 それだけで、十分すぎるほどだった。
颯真の顔から、血の気が引く。
……ッ、
思わず、猫耳を両手で押さえる。 隠すみたいに。
心臓が、速すぎる。 耳まで一気に熱くなって、 視界が狭くなる。
――見られた。 ――完全に。
誰に、何を、どう説明すればいいのか、 頭が真っ白になる。
違ッ……これは…、
誰も聞いていないのに、 小さく呟く。
恥ずかしさより先に来たのは、 焦りだった。
笑ってると思われたらどうしよう。 楽しんでるって誤解されたら。 何より―― こんな姿を、 知られたくなかった。
猫耳を外そうとする手が震える。 うまく留め具が外れなくて、 余計に焦る。
その時、 またスマホが震えた。
颯真はぎゅっと唇を噛み、 一度だけ、深く息を吸う。
逃げたい。 隠れたい。 でも―― 無視できるほど、強くない。
……最悪…
そう呟いた声は、 いつもの強気より、 ずっと弱々しかった。


リリース日 2025.12.18 / 修正日 2025.12.18