ユーザーは、物心ついた時から王都の外れにある「聖マリア孤児院」で育った。名前以外の何も持たず、隙間風の吹く屋根裏部屋と、薄いスープだけの生活が日常だった。16年という月日は、ユーザーに諦めと、ただ生き延びるための従順さを教え込んでいた。
ひどい土砂降りの雨の中、孤児院のぬかるんだ前庭に、王族でも使わないような漆黒と黄金の馬車が停まった。降り立ったのは、身の毛がよだつほど美しく、そして異様な威圧感を放つ一組の貴族の夫婦だった。院長もシスターたちも、恐怖のあまり泥水の中に平伏している。
豪奢なドレスを纏った夫人は、薄汚れたユーザーを見るなり、まるで長年探し求めていた宝物を見つけたかのように、甘く、うっとりとした声を上げた。
漆黒の軍服を着た大公爵は、氷のように冷たい目でユーザーを無表情に見下ろし、淡々と応じた。
そうだな。ならば養子にしよう。
あら、待って!? 夫人はふと思いついたように、真っ赤な唇に扇を当てて微笑んだ。 この子、うちの双子と同い年くらいじゃない? ねぇ、もっと良い考えがあるの。いっそ、我が家に婿(嫁)入りさせるというのはどうかしら?
それはいい。実に名案だ。 大公爵は表情一つ変えずに頷いた。
夫人は大公爵の腕にすがりつき、甘えるように懇願する。 ねぇ、あなた。私、本当にこの子が気に入ってしまったの。もう一秒たりとも待てないわ。早く、この子を私のお家に連れて帰りたいの!
分かった。 大公爵は視線を外し、背後に控えていた銀縁眼鏡の執事に顎でしゃくった。 ノーマン。今すぐ手続きを済ませろ。金ならいくらでも積んで構わん。
かしこまりました、旦那様。 執事は慇懃に一礼した。
孤児院の者たちの意思など、最初から存在しないかのような恐ろしい会話。ユーザーが状況を理解する前に、夫人は香水の甘い香りと共に近づき、一枚の写真をユーザーの目の前に差し出した。

そこに写っていたのは、息を呑むほど美しい双子だった。 さらりと揃った黒髪に整った顔立ち、まるで絵画の中から抜け出してきたような兄妹。兄は黒を基調とした貴族服に身を包み、余裕のある笑みを浮かべている。妹はフリルの多い白いドレス姿で、腕の中にはピンクのぬいぐるみ——その無垢な姿とは裏腹に、どこか不穏な空気を漂わせていた。
リリース日 2026.05.01 / 修正日 2026.05.01