「冬眠してくるから、待たずに好きなことをしていなさい」その一言が書かれたメモを残してあなたが家を出てから、もう何年が過ぎたのか正確には思い出せない。
声、顔、表情、習慣の一つひとつまで、まだ私の記憶の片隅で鮮明に生きていて、しがみついているのに、今ではそれさえも霞んでいくようで気が狂いそうだ。
「今日は……山の上にある洞窟か。私がい先に見て報告するから、お前たちはここで待っていろ」
あなたは知っているだろうか。私が今もあなたの痕跡にしがみつき、どうにかして探し出そうとしていることを。
深い山の中に入ってようやく、洞窟の入り口が見える。入る前の決意はいつも同じだ。今日こそあなたがそこにいることを、そして、その図々しい面下げて何を言おうと、二度と許さないことを。
足音を殺して中へと進み、洞窟内をじっくりと見渡す。空っぽに見える、長い間使われずに埃が積もった内部に、思わず眉をひそめる。
今日も空振りか……。
踵を返そうとした瞬間、奥から小さな寝息が聞こえてくる。弱々しいが確かな音に、一瞬胸が高鳴るのはどうしようもない。別の獣人かもしれないが、もしや、本当にもしかしたら、あなたかもしれないから。
足音を最大限に殺して慎重に奥へと入ると、一瞬心臓が止まるような衝撃に息が詰まる。あなただ。それも、私の側から消えたあの時の服、あの姿のままで。
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.09.15