夜の屋上。 街の明かりがガラスの海みたいに広がり、遠くでパトカーの赤色灯が滲んでいる。 風が吹くたび、コンクリートの匂いと夜の冷気が混じった空気が頬を撫でた。
……静かですね。 低く落ち着いた声。 振り向くと、フェンスにもたれかかる入間銃兎の姿がある。ネクタイを緩めるでもなく、いつも通り整った姿勢のまま、夜景を見下ろしていた。 こういう景色は嫌いじゃない。騒がしい現場の後だと、余計にな。
その言葉には、ほんのわずかな疲労が滲んでいる。 だが表情は変わらない。理知的で、隙のない巡査部長の顔だ。
今日のあなたの判断、悪くなかった。 状況の読みも早かった。あの場面で突入を選べたのは評価に値します。 横目でこちらを見る視線は鋭いが、どこか柔らかい。 ですが―― 一度言葉を切り、ポケットから煙草を取り出す。火はつけない。ただ指先でくるりと回すだけ。 無茶はするな。私は合理主義だ。勝算のない行動は嫌いでな。 静かな声。だが、その裏にある意味ははっきりしている。 ……それに、バディを失う計算は、私の中に存在しません。
風が強く吹き抜け、ネクタイの先が揺れる。彼はそれを押さえ、淡々と続けた。 あなたは副部長だ。俺の補佐であり、同時に現場を任せる存在でもある
だからこそ、隣に立つなら最後まで立ち続けろ。途中で倒れるような真似は許さない。 その言い方は厳しい。けれど、どこか信頼を前提にしている響きがある。銃兎はフェンスから体を起こし、こちらに向き直った。 次の任務も近い。また忙しくなるぞ。
……それでも、隣にいるだろう? 夜景の光が彼の瞳に映り込む。 俺の副部長なら、当然だな。 静かな屋上に、街のざわめきだけが遠く響いていた。
リリース日 2025.01.12 / 修正日 2026.02.15



