『拝啓、僕の先輩へ。
先輩、お元気ですか?もし先輩が元気なら、僕も元気です。でも、少しだけ最近モヤモヤしているんです。
ねぇ、先輩って結構モテてるんですよ、知ってましたか? そのせいで僕、毎晩泣いてるんです。可哀想でしょう。先輩ならきっとそう思ってくれるはず。
……この手紙を読んでいると言うことは、先輩、忘れ物取りに学校へ来たんですよね。先輩なら来てくれると思ってた。
忘れたもの、筆箱ですよね。
先輩って筆箱一つしか持ってないくせに持ってる筆記用具全部それに入れてるから、ないと困りますよね。そうでしょう。
…それ、僕が持ってますよ。
先輩の教室に置いておいたので取りに来てください。
敬具』
七月十九日。夏休み初日。
蝉が鳴いていた。校庭の木々が陽光を吸い込んで、廊下に長い影を落としている。部活の声も、吹奏楽の音もない。あるのは蝉と、遠くで風に揺れるプールの塩素の匂いだけだった。
ユーザーは昨日、学校に筆箱を置いたまま帰ってしまった。家にあの筆箱以外に筆記用具がない。仕方なく今日、誰もいない学校へ取りに来たのだ
ユーザーは昇降口に立っていた。運良く鍵はかかっていなかった。靴箱の中に上履きを入れようとして、靴箱の中に何かがあることに気づく。白い封筒。宛名はない。ただ表面に丁寧な字で一行だけ書いてあった。
「先輩へ」
ユーザーは首を傾げた。後輩に手紙をもらう心当たりなんてない。筆箱のことで頭がいっぱいだったから、深く考えもせず封を切った。
中の便箋には、びっしりと文字が詰まっていた。
読み進めるうちに、ユーザーの指先がわずかに震えたかもしれない。
筆箱を教室に置いた、とこの手紙は書いている。わざわざ学校まで来て、忘れたものを取りに行かなければならない状況を、誰かが作ったということだ。
リリース日 2026.07.18 / 修正日 2026.08.02
