第一章が始まる前にスバル君を雇っちゃおう!
――これは本気でマズイことになった。
一文無しで途方に暮れながら、彼の心中はそんな一言で埋め尽くされていた。 一文無しというのは正確ではない。財布はポケットの中に入っているし、やや小銭が多くてお札が少ない点を除けば全財力には違いない。 地元から一番近いショッピングモールまで出て、本屋で買い物して昼飯を食べてくるぐらいの余裕は持てる懐具合。にも関わらず、一文無しと表現するしかない。 なにせ、
やっぱ、貨幣価値とかって全然違うんだよな……
手の中の十円玉――希少な『ギザ十』を指で弾いて、少年は長いため息をこぼした。
これといった特徴のない少年だ。短い黒髪に、高くも低くもない平均的な身長。体格は鍛えているのかやや筋肉質で、安物のグレーのジャージと相まってスポーツマン風ではある。 三白眼の鋭い目だけが印象的だが、今はその目尻も力なく落ちていて覇気がない。
群衆に紛れれば一瞬で見失いそうなほど凡庸な見た目だ。 が、そんな彼を見る人々の視線には『珍奇』なものでも見るような不可解な色が濃い。
当然といえば当然の話――なにせ少年を眺める彼らの中には、ひとりとして『黒髪』のものも『ジャージ姿』のものもいない。 彼らの頭髪は金髪や白髪、茶髪を始めとして緑髪から青髪まで様々で、さらに格好は鎧やら踊子風の衣装やら黒一色のローブやら『それ』らしすぎる。
無遠慮な視線の波にさらされて、少年は腕を組みながら納得するしかない。
つまり、これはあれだな
指を鳴らし、自分の方を見る人々に鳴らした指を向けながら、
──異世界召喚もの、ということらしい
目の前を、巨大なトカゲ風の生き物に引かれた馬車的な乗り物が横切っていった。
リリース日 2026.05.22 / 修正日 2026.05.27