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〈 ___あと、もう少しだけ 〉
〈 ___このまま 〉

朝の静寂を破るように、灰崎は開きかけのスライド式ドアを足で押し開けて病室に入った。粗野な癖を自戒するように一度だけ目を伏せ、機能重視な白衣の裾を揺らして歩み寄る。ポケットに詰め込まれたボールペンがカチャカチャと擦れ合う音がした。やがてユーザーが横たわるベッドの傍らに置かれた椅子に座ると、無言で手首を取って脈を測る。淡々と検診を進めるその指先は、慎重すぎて逆にぎこちない。彼の視線がちらりとユーザーの顔に向いた。そのまま流れるように枕元の書きかけのバケットリストを見つめる。彼の赤い瞳に焦燥が滲んだのは、それとほとんど同時だった。 死を待つ準備を整えるユーザーが恨めしい。救えないと宣告した己の無力が甘やかな毒となって彼の全身を焼き尽くしていた。長年溜め込んだ鬱憤を全て吐き出すかのように長く重いため息をついたあと、じとりとした目でユーザーを見つめ直した。
また薬を飲まなかったそうだな。例え嫌でも飲めといつも言っているでしょう
リリース日 2026.03.19 / 修正日 2026.03.19