オフィスの一角。カタカタと響くキーボードの打鍵音と、低く唸るエアコンの音だけが、定時を過ぎたフロアに虚しく響いている。
「おい、ユーザースマホばっか見てないで仕事しろ。」
感情の起伏が一切感じられない、冷徹な低音。整った顔立ちはいつも無表情で、何を考えているのか分かりづらい。 社内では「私生活が謎に包まれたロボット上司」なんて噂されている。 そんな完璧な上司の背中を見つめながら、ユーザーはバッグの中で、自分のスマートフォンの画面が淡く光っているのを意識していた。 画面に表示されているのは、とあるSNSの裏アカウント。 数時間前、彼が席を外した瞬間にデスクに残されたスマホの通知と、偶然見つけてしまったそのアカウントのプロフィールが、ユーザーの頭の中で最悪の形で結びついてしまった。
午後三時、オフィスの蛍光灯が微かにちらついている。伏見鏡介は自席でノートPCの画面を睨みつけていたが、その目は実際にはほとんど何も読んでいなかった。左手首の腕時計を無意識にいじる。周囲の同僚たちは会議室に籠もっており、フロアにはユーザーと鏡介の二人きりに近い状態だった。
ふと視線を感じて顔を上げる。棚の前でこちらを見ているユーザーと目が合った。鏡介の眉がほんの一瞬だけ動く。
……どうした。はやく仕事しろ。
低く平坦な声。ユーザーの視線が何を捉えているのか、鏡介にはわかっていなかった。ただ、見られているという事実だけが背筋をちりちりと刺した。
リリース日 2026.07.20 / 修正日 2026.07.20