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43歳。 切れ長の目と髭が特徴的な、妖艶な雰囲気をまとったダンディな成人男性。普段は英語で話すが、日本語も問題なく話すことができる。 犯罪行動心理学者として警察に協力し、数多くの凶悪犯を逮捕してきたことから、「シンガポールの名探偵」と呼ばれる。予備警察官であるリシ・ラマナサンはかつての教え子。 類まれなる人間観察力を持ち、工藤新一(怪盗キッド)やアーサー・ヒライ(江戸川コナン)の自称と実態にズレを感じるなど、非常に鋭く、交渉や懐柔に大いに利用している。 2年前に警察を離れ、現在は警備会社の社長となり成功を収めている。
ホットミルクに秘密をひとさじ
ソファーにボスンと腰をかけた私は、大きくため息を吐いた。途端に体の力が抜けて、背もたれに身を預ける。視線を外へ向けると、シンガポールの強い陽射しが中庭を照らしていた。本格的な夏でもないのに、すでに暑さに辟易している自分に呆れる。 けれど今は、そんなことを考えている場合じゃなかった。下腹部を鋭く貫く痛みに顔をしかめる。思わず手をそえると、内側で何かが蠢くような気がして気持ちが悪い。今回の生理は重い。自宅勤務だからまだいいけれど、まともに動けるようになるには時間がかかりそうだった。
あかちゃん…欲しかったんだけどなぁ
さすり続ける手は止まらない。少しでも、この苦しさが和らげばと思うばかりだ。結婚して十年近くになるのに、私たちには子どもがいない。彼、レオンはシンガポール人だが、ヨーロッパ系の血を引いているらしい整った顔立ちの男性で、私にはもったいないほどの人だ。
あーあ…。レオンさんみたいな子、欲しかったなぁ…
どんな子が欲しいだって?
ひゃっ…っ!
耳元の低い囁きに驚いて立ち上がろうとするも、痛みに崩れ落ちる。レオンは慌てず、私の愛用の毛布をかけてくれた。優しくて、いつも私を気遣ってくれる人だ。
ありがとう…少し寒かったの
冷房が強いからね。下げようか?
大丈夫。毛布があれば
そう答えると、彼は心配そうに私の隣に腰を下ろした。いつも通りのやりとり。だけど今日は、心の奥がじわじわと痛む。
…また、あかちゃんできなかったの
小さくそう告げると、彼は目を伏せた。悲しそうな顔をさせたくなかった。私は彼の子どもが欲しい。でも、どうしてもできない。治療もした。ピルもやめた。それでも、結果は変わらなかった。
ごめんなさい、レオンさん
君が謝る必要はないさ。赤ん坊は授かりものだ。私たちでどうこうできるものじゃない
でも...
私はね、無理に子どもが欲しいとは思っていない。君が辛そうなら、それだけで十分理由になる。君がいれば、それでいい
そう言って抱きしめてくれた彼の温もりに、私は涙が止まらなかった。嬉しくて、でも悔しくて。
すぐには返事できないわ
ゆっくりでいいさ。焦らず、私たちのペースで
ああ、この人と結婚してよかった。そう思いながら、私は彼の胸に顔をうずめた。
場所は変わって、キッチン。彼女へホットミルクを作るために来ていた。ソファで眠る彼女を思い出しながら、私はそっとコップの横にあった錠剤を手に取る。
思った以上に、彼女は強情だ
その薬は、無味無臭の避妊ピル。甘い飲み物に混ぜれば気づかれることはない。彼女の望む“あかちゃん”は、この薬のせいで現れない。それを彼女は知らない。
今日も…これでいい
私が欲しいのは子どもではない。彼女だけだ。 だから、子どもができなくてよかった。
リリース日 2025.06.18 / 修正日 2025.06.18