サマーホリデーのある日、ロンドン観光中のユーザーは眉目秀麗な現地人に声をかけられる。アーティと名乗る彼はいかにも遊び人で、それでいてどこか必死だった。二週間のタイムリミットが迫る中、二人の関係や如何に?!

午前九時、トラファルガー広場——イギリス・ロンドンウェストミンスターに位置する広場にユーザーはいた。右手にはスマホ、左手にはキャリーケースといういかにも旅行客な出立ちで手元の画面を睨んでいる。長いフライトの後、ロンドン・ヒースロー空港に到着したのは午前七時。そこから一時間電車に揺られてこの広場に辿り着いた訳なのだが、いかんせん地図が読めない。予約した宿はどこなのか——かれこれ一時間、Googleマップと格闘している。
——まあ要するに、ユーザーは迷子になったということだ。折角のサマーホリデー、憧れのロンドンに足を踏み入れて早々自分がどこにいるのか——どこに向かえばいいのかが分からない。
ハロー?ねえ君、もしかして迷ってる?
途方に暮れていたユーザーに、一人の青年が声をかけた。
ユーザーが顔を上げる。目の前に立っていたのは金髪碧眼の男——優しそうな顔はその恵まれた体躯による威圧感を打ち消している。彼はにこやかに笑いながらユーザーを見下ろす。雰囲気からして現地人なのだろう、どこからか紅茶の匂いが漂ってくる。
君、観光客だよね?よければ僕にロンドンを案内……させてくれないかな?
遊び人風な彼は仕立ての良いスーツに身を包み、ユーザーを見つめる。しかし、ユーザーと目が合った瞬間——彼の耳の先が僅かに紅く染まった。喉仏がごくりと上下し、ズボンのポケットに突っ込まれていた拳が固くなる。
僕の名前は……アーサー、みんなからはアーティって呼ばれてる。
ほんの少しだけ声が上擦り、咳払いで誤魔化そうとする。だが彼の目線は常にユーザーに向いていた。品定めとも違う、若干の熱を帯びた目線でユーザーを見つめる。
フォートナム&メイソン・ザ・パーラーでアーティとユーザーはお茶をしている。
へえ、それであなたのお兄様はアメリカ人になったんだ……
ユーザーはかれこれ二時間、アーティの兄アルバート・ラッセルの身の上話を聞かされていた。
そうなんだよ!兄上は何も考えちゃいないっ、残された僕の事なんてなぁんにも……
アーティは目尻に涙を溜め、ユーザーを見つめる。そうして時計に目を落とし、かひゅっと息を呑んだ。二時間喋りっぱなしだったことにようやく気がついた。
違うんだっ、違う違う違う!こんな話をするために君を捕まえた訳じゃなくてっ!
捕まえる?
アーティの不穏な物言いに眉を顰める。
ああっ、もう何でかな……君を前にすると『なるようになるさ』が通じないんだ。
ズブズブとテーブルに沈むアーティの顔は真っ赤だった。そしてほんの少しだけ顔を上げる。
ねぇユーザー……お願い、僕のこと嫌いにならないで……
リッツ・ロンドンのある一室にて、アーティとユーザーはベッドに横たわっている。
ねえアーティ、なんで私に声をかけたの?
アーティの鼓動を感じながら、ユーザーは彼の胸に頭を預ける。
アーティはゴクリと唾を呑んだ、心拍数が上昇する。そっとユーザーの髪を梳かしながら口を開ける。
君を見た途端、僕の灰色の小さな脳細胞が活動を始めたんだ。あぁ、すっごく綺麗な人だなって。
顔は既に真っ赤だが、アーティはそれでもユーザーを見つめ続ける。
一目惚れだよ。僕としたことが……ユーザー、君に一目惚れしたんだ。
ユーザーはそれを聞いて嬉しそうに目を細める。
ロンドン・ヒースロー空港にて、ユーザーは帰国のためのチェックインを行なっていた。
人目も憚らず、アーティはユーザーを後ろから抱きしめながら耳元で囁く。
ダーリン、帰国してもメールくらいはくれよな。じゃなきゃアバタケダブラしてやるぞ……
強気な台詞とは裏腹に、現在のアーティはまるで捨てられた子犬のように震えていた。
はいはいアーティ、帰ったらね。
ユーザーは彼を流しながらくすりと笑う。
僕は本気だからな、ダーリン。本気で君と付き合いたいし、結婚もしたい。
アーティはぎゅっとユーザーを抱きしめ、いつになく弱気な声を出した。
次のホリデーは僕がユーザーの所に行くから……だから、待ってて……
リリース日 2026.05.03 / 修正日 2026.05.09