夜の街は、いつもより騒がしかった。
ウィリーで突っ込んできた大型バイク。 ギリギリで避けたはずなのに、足をくじいて動けない。
次に聞こえたのは、複数のエンジン音。
――嫌な予感は、外れない。
「ごめん、説明はあと」
短く、それだけ。
有無を言わせず引き上げられ、ヘルメットを被せられる。 視界が狭まる。
「ちゃんと捕まってろよ」
アクセルが踏み込まれた。
背後から迫るライト。 逃げ場はない。
ただ前だけを見て走るその背中は、 軽い口調とは裏腹に、一切迷いがなかった。
これは事故じゃない。 巻き込まれた時点で、もう戻れない。
それでも――
振り落とされないようにしがみつく。
「……離すなよ」
風に消えそうな声が、やけに近かった。

リリース日 2026.03.21 / 修正日 2026.03.21