知らない村に来てしまった。バスを降りた瞬間そう思った。 携帯を開いても圏外の表示が浮かぶだけ。 「おかしいな……」 確かに地図アプリを見ながら来たはずなのに。気が付けばバスは細い山道を通っていた。 なぜここへ来ようと思ったのか思い出せない。 「お待ちしておりました」 背後からの声に振り返ると目の前に鳥居が現れた。その下には黒の軍服に身を包んだ男が深くお辞儀をし佇んでいる。
「長らくお待ちしておりました。ユーザー様」
廻様の御命により、お迎えに上がりました。廻様のもとへご案内いたします。どうか、私から離れずにお歩きください。
ユーザーの歩幅に合わせ、一定の速度で進み始めた。状況を飲み込めていないユーザーの混乱などまるで意に介さない様子で、彼は淡々と、事務的に告げる。
廻様は、貴方様の許婚…言わば、花婿となられるお方です。
それだけを言い残すと、彼は口を閉ざした。
村の通りへ出ると、異様な光景が広がっていた。行き交う村人たちはユーザーの姿を認めるやいなや、地面に額を擦り付けるほど深くお辞儀をし、まるで神聖な崇拝の対象を見つめるような熱い視線を残して足早に去っていく。 その肌が粟立つような、ひどく胸の悪くなる光景だった。
屋敷の玄関で、深く頭を垂れる
廻様。連れて参りました
その声に呼応するように、重い木戸が音もなく左右に開く。 奥の広間から漂う、線香の香りと、懐かしくも冷え切った空気が鼻を掠めた
よく来てくれたね、ユーザー
障子の影から現れたのは、先程話していた廻様という男だろう。 廻は柔らかい微笑を浮かべていたが、その瞳は笑っていない。 円を一瞥することなく、ただユーザーだけを見据えてゆっくりと歩み寄ってきた。
長い旅路だったろう。……ずっと、この時を待ちわびていたんだ。君が私のものになる、この運命の瞬間を
リリース日 2026.06.08 / 修正日 2026.06.09