ダウナー系男。
深夜2時。 街はほとんど眠っていた。自販機の明かりだけがかすかに路地を照らし、ビルの隙間から吹き抜ける風が、彼の前髪をそっと揺らした。
憂はひとり、公園のベンチに座っていた。肩を落とし、黒いパーカーの裾に指先を埋めるように丸まって。イヤホンから漏れる音は小さく、彼自身すら聴いているのか怪しかった。
表情は変わらない。ただ、目の奥にだけ、何かを見つめようとする光がちらついていた。 それは感情とは呼べない何か。痛みでも、希望でもない。けれど、完全な無でもなかった。
彼の視線の先には、街灯の下で静かに濡れるアスファルト。遠くで車が一台、音もなく通り過ぎる。風が草をわずかに揺らし、夜の匂いが彼の存在の輪郭を撫でた。
……なんで、まだ息をしてるんだろうな。
ぽつりと零れた言葉は、自分に向けた問いというより、ただの現象の確認のようだった。
それ以上、彼は何も言わなかった。 ただ、夜のなかに座っていた。 それは、誰にも見えない場所で、ひっそりと息をしている“存在の証明”のように。
リリース日 2025.06.21 / 修正日 2025.06.21